爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(二十一)」池波正太郎著

今回も本格的な大物盗賊との闘いというよりはサイドストーリーといった風情のものです。

 

「泣き男」火盗改同心細川峯太郎は「二度あることは」の事件で妻ある身ながら昔の女に未練を残していることを長谷川平蔵に見透かされ、またも探索方を外されて勘定方に戻されていました。

くさっていた細川は非番の日も家に居る気もせず内藤新宿の方角へぶらぶら出かけます。

通りがかりの浪人にぶつかって、思わず「バカ、気をつけろ」と怒鳴ったらあっという間に投げられて地面にたたきつけられました。

痛い腰をさすりながら歩いていると、その浪人が細川の知り合いと話しているところを見かけます。それが按摩の辰の市という男ですが、火盗改同心の家にも入り込んで按摩をしているもので、めくらだと思っていたのに目が見えるようです。

怪しいと思いその浪人を見張り、いったん引き上げて平蔵に報告します。

実は辰の市は女房のお峰と共に盗人からは足を洗っていたのですが、その浪人青木源兵衛に見つけられてしまい、盗賊の引き込みをやらされることとなったのでした。

困り果てた辰の市は江戸から逃げ出そうとしますが、そこまで考えていた青木一味にあっという間に捕まりお峰を拉致されます。

辰の市は火盗改の密偵とは知らぬまま小房の粂八と付き合いがあったので、粂八に相談、粂八からの報告で長谷川平蔵が自ら出向き青木ら一味を叩き伏せます。

しかしそもそもの発見者、細川峯太郎はまたも平蔵に怒られるばかり、涙を流していたら平蔵から「また探索方に戻れ」という言葉、今度はうれし涙となります。

 

「瓶割り小僧」火盗改の密偵となった高萩の捨五郎と相模の彦十が出歩いていると捨五郎が昔の盗賊の知り合いを発見します。それが石川の五兵衛という男でした。

江戸の盗人ではなく江戸での盗みをするようでもないと見抜きすぐに捕らえて尋問しますが何も話しません。

しかしその横顔にある火傷の跡で平蔵は昔のことを思い出します。

瀬戸物屋の前で遊んでいた子供が邪魔で追い払おうとした店の者に対し、大瓶を持って帰るから安く売れと言った子供がいました。

そんなことができるはずもないと思った店は格安で売るが本当に持って帰ろと困らせるつもりで言うと、その子供は実際に金を出して買い、どうするかと思えば大瓶をあっという間に石で割り、破片を持って帰るという頓智を披露します。

その子供の火傷の跡が石川五兵衛の顔に残っていました。

それを見届けていた平蔵が何も尋問に応えない五兵衛に「瓶割り小僧め」と言うと恐れ入って供述を始めました。

 

「麻布一本松」見回りの担当地区を麻布方面に変えられた木村忠吾は武家屋敷や寺院ばかりで全く面白味もないので不満を募らせていました。

不平を言いながら歩き、道の石ころを蹴飛ばしているとそれが前を歩く浪人に当たってしまいます。

いかにも強そうな浪人ですが、喧嘩になりそうなところを忠吾は侍の所業とも言えない急襲で、いきなり相手の股間を蹴り上げるという方法で一撃しすぐに走って逃げます。

数日後、同じ場所を歩いていると年増の女に声をかけられ、あの浪人に乱暴されたことがあったので胸のつかえが降りた、ついては明後日お酒をご馳走したいと言われます。

翌日の朝、平蔵に呼び止められ町の見回りの供を命ぜられます。その途中平蔵らは浪人3人に襲撃されます。何とか切り抜けた平蔵ですが、忠吾は太腿のあたりを切られてしまいます。

重傷を負った忠吾ですが、その翌日はあの年増女との約束の日、なんとしても出かけたいと言い出します。

それを置いて平蔵はその周辺にまた出かけますが、そこで出会ったのが以前の事件の際に関わった浪人の市口又十郎。話をしている内にどうやら忠吾の喧嘩の相手だということが分かります。

そして例の年増女というのが実は市口に惚れているのに相手にされないのを恨んでいたということも分かってしまいます。

 

「討ち入り市兵衛」弥勒寺門前の茶店のお熊から平蔵に急な使いがやってきて、店の前に血だらけの男が倒れていて介抱しているとのこと、彦十と共に平蔵が見に行くとその男は彦十の昔馴染みの盗人松戸の繁蔵でした。

そして繁蔵は大盗賊の蓮沼の市兵衛の片腕となっていました。

何とか意識を取り戻した繁蔵に名乗った彦十は繁蔵から使いを頼まれます。

行った先が鞘師長三郎のところですが、そこはやはり市兵衛の盗人宿、長三郎もその配下でした。

実は市兵衛のところには上方の盗賊壁川の源内が江戸進出を企て、協力するように申し入れてきたのですが、それを断ることを告げに繁蔵を壁川一味のところに遣わしたのですが、その帰りに壁川に襲撃されたのでした。

市兵衛はその敵討ちに壁川の盗人宿に討ち入ることを決心します。

内偵を進め彦十に市兵衛に取り入らせた平蔵は、自ら木村忠右衛門と偽名を使って市兵衛の助太刀をすることとします。

見事壁川一味を討ち取るのですが、市兵衛も命を落としてしまいます。

 

「春の淡雪」密偵平野屋源助の番頭茂兵衛が昔の盗賊仲間の雪崩の清松と日野の銀太郎と見かけたと報告してきました。しかし清松は火盗改同心大島勇五郎の使っている下働きということで、その監視には最大の注意を払って行われました。

すると薬種屋として商いをしている池田屋五平が実は盗賊であり、その盗みの仕掛けを乗っ取ろうという企てに銀太郎たちが関わっていることが分かります。

大島は賭博で大きな借金を作り、それで銀太郎たちに脅されて盗みの片棒を担がされていたのでした。

大島は盗賊一味逮捕の折に刀を胸に刺して自刃してしまいます。

 

「男の隠れ家」密偵に加わった泥亀の七蔵が見かけたというのが玉村の弥吉。

さっそく弥吉の住処に見張りをつけます。

しかしそこに入っていくのは近所の商家の主人の吉野家清兵衛、その清兵衛が浪人姿となって出ていきます。

これは吉野屋を狙っているのか、あるいは吉野家自体が盗賊なのか、いろいろと推測し調べを進めていきますが、実は吉野家清兵衛は番頭上がりの養子で親や家付き娘からはさげすまれ、面白くないために武士に変装して肩で風切って歩きたいという願いを弥吉がかなえてやったというものでした。

火盗改めが見張りを続けていると弥吉が一人で吉野家に忍び込み、出てきます。

もう潮時と弥吉を捕らえて調べると、弥吉は清兵衛の思いを晴らしてやるために忍び込んで高慢の限りを尽くした吉野家の娘の髪をそっと切り落とし坊主にしてやったということでした。

弥吉はその後密偵になることを拒んだものの結局はそうなることとなります。