爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(十五)」池波正太郎著

この第十五巻は他の巻とは異なり一冊で「特別長編”雲竜剣”」となっています。

初出発表は月刊誌”オール讀物”に七ヵ月に渡り連載されていますので、一編ごとに題名は付けられていますが、長編小説として続いた内容となっています。

火盗改めの与力同心が続けざまに殺害されるという事件から始まり、それの対策で火盗改めの動きが制限されるなか、江戸市中で大規模な押し込み強盗が発生するという危機的状況に堕とされた平蔵たちがかすかな手がかりから探索を進め本丸に迫っていくという非常にスリリングな展開です。

 

その秘めた謎もなかなか明らかにはされず、その概要が示されるのがようやく最終編になってからというもので、推理小説的要素も強く持っている構成です。

したがって、もしもこの本を読もうという方には最後の謎解きを明かされてしまうと興ざめですので、次の解説は読まれない方がよろしいかと。

 

「赤い空」火盗改同心片山慶次郎が殺害されますが、その少し前に平蔵も恐ろしい剣客に襲われ、片山の傷からその相手が同一ではと疑い、その太刀筋から昔剣術を習った高杉先生から聞いた堀本伯道という剣客に思い至り、その関係を探るため盟友岸井左馬之助を常陸の牛久に調べに送ります。

ちょうどその頃、密偵の平野屋源助のところに旧知の鍵師助治郎が現れるのですが、助治郎も牛久を目指して去ります。

 

「剣客医者」片山に続き同心金子清五郎も殺害されて発見、これは火盗改への挑戦に違いないとして非常事態対応体制としますが、その隙をつくかのように薬種屋長崎屋に兇盗が押し入り家族奉公人を皆殺しの上金を盗むという事件が発生します。

平蔵は恩師の話の剣客医者堀本伯道との関連を強く疑うのですが、肝心の恩師の言葉が思い出せません。

 

「闇」牛久に赴いた左馬之助と五郎蔵は伯道の足取りを探りますが、すでに三十年以上も前のことでほとんど知る人もなくわずかな話を聞くのみでした。

そのさなかに鍵師の助治郎と出くわしますが、怪しいとにらんだ助治郎はすぐに江戸に立ち戻ります。

また正体不明の剣客に左馬之助が襲われるという事件も発生、ますます混迷を深めます。

 

「流れ星」牛久から逃げ帰った助治郎は源助を疑うこともなくその店に転がり込み一晩休息を取ったのちまた旅立ちますが、すでに連絡を受けていた火盗改は木村忠吾たちを尾行につけます。

助治郎は藤沢を過ぎ南湖の松林の中の小屋に入りますが、そこは貧しい人々を住まわせて衣食を施す報謝宿というところで、助治郎はそこに金を出しているのでした。

探索を進める平蔵は街角で三人の浪人に襲われます。

 

「急変の日」浪人を倒しますが、捕らえられた一人はすぐに自害します。そして火盗改の役宅の門番が殺害されます。

ちょうどその頃、相州南湖の報謝宿の助治郎のもとに訪問者がありました。

木村忠吾と共に監視に当たっていた同心吉田藤七はそれが堀本伯道であることを見破り、助治郎と伯道の手下たちが小田原の鍵つくりの鍛冶屋に向かうことを確かめます。

そして平蔵が探索の途中に見た茶店の看板の文字から、高杉先生の言葉「丸子」を思い出し、武蔵の国橘樹の丸子(現在の川崎市丸子)に探索の手を伸ばします。

 

「落ち鱸」丸子にはかつて堀本伯道が剣道場を設けていたことが分かりますが、現在は別の剣客が道場に居ることも分かります。

そして助治郎と別れた伯道一味は逆に江戸に向かいます。

 

秋天清々」伯道一味に的を絞った平蔵はそのあとをつけますが、彼らは自らの盗人宿ではなく息子堀本虎太郎の住処を目指します。

明け方に伯道はそこを急襲し、息子虎太郎を始めその手下たちと切り合い、虎太郎は殺すものも自らも死んでしまいます。

そこに平蔵たちも切り込み、虎太郎一味を捕らえます。

堀本伯道は剣豪であり医者でもあり、さらに盗賊の頭領でもありました。

長年にわたり盗みはしたものの富裕なところからしか盗まず、人を殺傷することも決してしなかったのですが、息子はそれとは異なり殺傷を厭わない畜生働きをするようになったため、自ら成敗する覚悟で息子一味を探していたのでした。

火盗改めの同心たちを殺害し、平蔵にも襲い掛かったのは息子一味でした。