爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「名曲誕生の裏事情」山根悟郎著

作曲家も生活のためには収入を得なければなりません。

しかし作曲家が作った曲を楽譜や、その後はレコードなどとして売り出して収入を得ることができるようになったのは近代以降です。

それ以前には宮廷楽団で職を得たり、教会のオルガン奏者となるなどしなければ暮らしを立てることすらできませんでした。

 

そういった状況で作曲家の生活を支えたのが援助者、パトロンといった人々でした。

そのような事例はいくつかは聞いたことがありますが、それをまとめてしまったのがこの本です。

 

ヘンデルが「水上の音楽」を作曲する際にイギリス王ジョージ1世の助力を得たということは有名かもしれませんが、実はジョージ1世はイギリス王に即位する前はドイツのハノーファー王でした。

そしてヘンデルとの関係はその頃から続いていたそうです。

 

モーツァルトは最後は極貧であったといわれていますが、支援をしていた人もいました。

その一人がスヴィーテン男爵という人物で、貴族の出ではなかったのですが父親が医者でマリア・テレジアの信が厚く男爵に叙せられたそうです。

非常に裕福だったため、モーツァルトだけでなくハイドンベートーヴェンにも支援をしました。

そして現在まで続く「ウィーン楽友協会」の元となる音楽団体の設立者だったそうです。

 

バイエルン国王であったルートヴィッヒ2世はあのノイシュバンシュタイン城を建設したことでも知られていますが、ワーグナーに多額の援助をしていたことでも有名でした。

それを恐縮に思うどころかさらにどんどんと使っていったのがワーグナーで、わずか1年半の間に4億円以上も使い果たしました。

それに対し家臣や国民たちが激しく怒り、ワーグナーを追放させます。

しかし王のワーグナー支援はその後も続き、19年間で総額9億円ほどが使われました。

これは実に当時のバイエルン王国の王室予算の7分の1だったそうです。

結局ルートヴィッヒ2世は強制的に退位させられその後謎の死を遂げました。

しかしこの王の恐るべき浪費がなければワーグナーの後期のオペラの数々は生まれなかったはずです。

 

これはパトロンの話とは離れますが、偽作というものがあります。

アルビノーニアダージョ」という曲は1960年代に映画に使われてヒットしましたが、17世紀イタリアの作曲家、トマゾ・アルビノーニの作品ではありません。

20世紀の音楽学者でアルビノーニ研究者、レモ・ジャゾットの作品でした。

ジャゾットはこの曲を「アルビノーニの未発見の作品を発見した」と称して発表したのですが、実際には「ほぼ創作」か「完全な創作」だったそうです。

 

作曲家とパトロンの話を年代別に書いていますが、それを見てすぐにわかるのは中世から古典派の時代までのパトロンは王侯貴族がほとんどですが、それ以降は市民階級の金持ちが多くなったということです。

特に近現代になると億万長者の奥さんなどという人たちが援助をするという例が見られます。

そういった人々の援助というものが音楽制作には欠かせないものだったのでしょう。