ロシアがウクライナ侵攻を仕掛けたのはNATOの拡大でロシアが危機感を覚えたからだということは聞きました。
また日本もNATOと頻繁に接触するということも言われています。
しかしそもそもNATOというのはかつてソ連が脅威となった頃にヨーロッパ側が手を結び対抗しようとしたのでは。
それがなぜソ連崩壊以降も大きな力を維持しているのか。
考えてみると分からないことばかりです。
この本はそういったNATOの成立時からの歴史的な事実の解説もされていますが、それ以上に現在のウクライナ情勢とNATOとの関わりといった点からも大きくページを割いており、NATO各国、ロシアと周辺国といった状況を分かりやすくまとめています。
これを見れば、突然ロシアがウクライナに軍事侵攻したといったイメージは全く異なり、ソ連崩壊以降徐々にロシア周辺にNATOが勢力を伸ばしてきたということが分かります。
まずNATOの組織の解説から始まります。
さらにNATOの成立当時の歴史的な状況、第二次大戦後のソ連の拡張とそれに対するヨーロッパの危機感、それがアメリカを巻き込んでの組織づくりにつながっていました。
それがソ連解体により大きく意味合いを変えていくのですが、単純にNATOの存在意義の喪失ということにはならず、解釈を変えて存続し続け、さらにかつての共産諸国のNATOへの参加という事態を引き起こします。
ソ連解体の初期にはアメリカもNATOの拡大はしないと口約束をしたのですが、それを破ってどんどんと旧共産国を加盟させていきます。
その状況について各国それぞれの事情も違うのですがそれもその専門家が記述しています。
ポーランド、チェコ、スロバキアといった国々のNATO参加はまだ許せても、バルト三国からジョージア、ウクライナへと広がっていくのはロシアとしては許せなかったのかもしれません。
そのため2008年にはロシア・ジョージア戦争が起き、さらにウクライナでも2014年に軍事衝突、クリミア・ドンパスのロシア併合といった動きが続きます。
本書後半ではウクライナ侵攻に対してのNATO各国の姿勢についても各国別に詳述されています。
NATO諸国でもその対応は一様ではなく国によりかなりの差があることが分かります。
今後のNATOについては、中国との関係、日本の関わりも問題となってきそうです。
軍事費のGMP比2%というのはNATO諸国に対してアメリカが強制したのですが、それがどうやら日本にも波及してきたようです。
かなり苦しい財政事情ながら各国ともに何とかそれを実行してきています。
中国はNATOにとっては地球の裏側の話ですが、中国がロシアと結ぶ姿勢を鮮明にしてきている以上問題となりそうです。
ただしあくまでもNATOがアジアに手を伸ばすということはなく、もしもヨーロッパ側に出てくればということに限られるようです。
NATO成立に向けて北大西洋条約が署名された1949年にはまだ西ドイツという国は成立していませんでした。
しかしNATOがフルに力をつけるためにはドイツの存在は不可欠でした。
日本の場合と同様にドイツも敗戦国でありながら復興が急務ということになりました。
そこには朝鮮戦争の影響も大きかったようです。
NATO加盟を希望しながらまだ実現してないのが、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ジョージア、ウクライナです。
ジョージア、ウクライナはロシアの反発が激しく、それにフランスやドイツが危機感を募らせました。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナは民族対立がいまだ激しく安定化しないことが原因です。
NATOが対ロシアという意味だけでも今後の情勢は不透明なのですが、それが中国なども加わったとしたらさらに混沌としてきそうです。
日本もアメリカ追随を続ける限りそれと一蓮托生になるのでしょうか。