爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「誰にも相談できません」高橋源一郎著

高橋さんは作家ですが毎日新聞の人生相談のコーナーの回答者を務めています。

そこに寄せられた相談とその回答をまとめたのがこの本です。

相談の多くは夫婦関係、家族問題、友人などとの人間関係の悩みが多いようですが、それに対し高橋さんは自らの体験や世界の多くの事例をもとに答えていきます。

 

高橋さんは今は妻子に囲まれ生活していますが、親との関係は悪く学校を出るとすぐに家を出て肉体労働などをしながら自活、その後文筆活動に入るも3回結婚しては離婚、最後の奥さんははるか年下と、人生相談を寄せてきた人々の悩んでいる内容よりはるかに激しい人生経験をしているためか、自らの体験を基にした答えには異様な説得力があります。

人生相談の回答者とはそのような人生経験を持つ人しかできないのかとつい思ってしまうほどのものですが、親に恵まれ友人関係も良好、職業も順風満帆という人では悩む人の助けにはならないのかもしれません。

 

それにしても、相談者の悩みには「そんなことで悩むなんて」と思う程度のものもありますが、多くは「よくそんなことを我慢していられるものだ」というほどの状況の人のものです。

高橋さんの答えでも「すぐに家を出なさい」といったものもあり、答えが間に合ったかどうか心配にもなります。

 

78歳男性の相談で、若い頃に離婚しその後も女性と付き合っているが、相手との年齢差がだんだんと開いていき、今の彼女は50歳以上の年下。将来が不安というものがありました。

高橋さんもあきれています。

常に20代の女性と付き合い続けている?

その秘訣を教えてほしいという答えでした。

 

50代女性の相談で、高校生の息子に友達ができず親として見ていて切ないというものです。

これに対して高橋さんの回答では、学校での指導経験を例に引いていました。

文章を書かせる授業で、「絶対に秘密は守るから、これまで誰にも言ったことのない自分の秘密を書きなさい」という課題を出したそうです。

すると3分の1以上がほぼ同じ内容であり、「友達のフリをしているけど本当は嫌い」「友達付き合いをしなければならないのが疲れる」というものだそうです。

若い人だけでなく多くの人は「友だちの呪い」にかかっているとしています。

小さい頃から「友だちがいるのが普通」と言われ続け、ただ偶然クラスが一緒になっただけの他人と「友だち」のように付き合う。

そのような見かけだけの友だちを作るくらいなら「孤独」を知る方がよほどまし。

この息子さんは「孤独」を知る人間に育ちつつあるのでしょう。

静かに見守ってくださいという回答でした。

 

家族関係に関する相談はどれも深刻で悲惨な状況になった人々の叫びのようです。

家族というものがいかに人を傷つけかねないものか。

注意しなければならないものでしょう。