爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人はなぜ病院で感染するのか?」太田美智男著

今回のコロナ禍でも病院内で医療関係者が感染する院内感染が多く起こりました。

しかし本書が刊行された2003年当時には別の院内感染の拡大が危惧されていました。

それがMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの抗生物質耐性菌によるもので、入院患者で免疫の衰えている人たちに感染すると治療も難しく死亡に至る例が多発しました。

本書著者の太田さんは当時名古屋大学医学部で細菌学の教授を勤めており、その関係で大学病院の院内感染対策を行なうICT(インフェクション・コントロールチーム)に加わり活動していたそうです。

そこでは欧米型のICTではうまく機能しないと考え、「日本型ICT」の構築を目指していました。

 

そのような経験から本書では院内感染全般について解説されています。

ただしそのような時代を反映し記述の多くは抗生物質耐性菌を主としており、ウイルスや昆虫などには限られた記述しかないという点は仕方ないことでしょうか。

 

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の感染症というものは現在でも解決はしていませんが、かつては大きな問題となりました。

黄色ブドウ球菌は誰でも保有していますが、健康な人であればそれが急に増殖して病気になるということはありません。

しかし他の病気などで免疫抵抗力が低下するとどんどんと増殖を始めることがあります。

その際、抗生物質に抵抗性がなければ適切な抗生物質で増殖を防ぐことが可能なのですが、その耐性を得た細菌であった場合はもう治療の手段がなくなります。

そういった抗生物質耐性菌というものは、人間が抗生物質を使い始めてから生まれ、広がってしまったのですが、特に抗生物質の使用法が制御されていなかった日本の大病院では蔓延してしまいやすいものでした。

 

著者は細菌学が専門ということで、大学病院などの大病院で細菌検査を外注することが多くなることに警鐘をならしています。

細菌検査技師を雇用するには多くの費用がかかるため外注する傾向が増えてきたのですが、それでは適切な抗生物質使用が難しく、結果的に耐性菌をさらに増やしてしまうことになります。

細菌検査も病院内で行なうという姿勢が耐性菌対応に必要ということです。

さらに医師を目指す医学生に対して感染症や病原菌についての講義が減っていることも問題です。

昔と比べれば感染症の危険性は激減していますが、今でも無くなったわけではありません。

医師の基本知識として必要なのでしょう。

 

感染症軽視の傾向はこの頃からも変わっていなかったのでしょうが、病原菌はウイルスに変わったとはいえ今回のコロナ禍の拡大にも医学界における風潮が影響したのかもしれません。