爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「道路をどうするか」五十嵐敬喜、小川明雄著

政府や行政の無駄、腐敗などを告発する本は数多く出ていますが、かなり以前のものであってもその内容が「是正された」ということはほとんどありません。

この本も2008年の出版であり、当時の道路特定財源と無駄な高速道路建設との癒着構造を鋭く批判したものですが、道路特定財源自体はその年に改正されて一般財源化されたものの、道路建設に多くの国税が投入される構造には変わりがないようです。

 

著者の五十嵐さんは弁護士にして大学教授、小川さんはジャーナリストで、二人の共著で政官財の癒着構造を告発する本を出版し、その8冊目として利権の中でも最大のものとされる道路特定財源道路建設の問題点を指摘する本書を書いたそうです。

 

道路特定財源とはガソリン税などの自動車関係の税収を道路建設に充てるものとする制度を指し、戦後すぐに戦争でほぼ完全に破壊された道路網の建設に充てるために揮発油税道路建設資金とするよう定めたことから始まり、その後も自動車関係の税金を特定財源とする方向で増やしていきました。

 

それは建設官僚や業界との癒着となり道路の質も量も十分すぎるほどになっても(この時点でもどちらも不十分という行政のプロバガンダが繰り返されましたが実際には国際的には十分すぎるものになっていました)まだその財源を手放そうとはせず、ほとんど通行量も期待できない地方の高速道路建設に支出し続けるという状況になっていました。

 

それは公共事業投資が国債を用いて過剰に行われるようになる中でも道路関係が突出することとなり、至る所にあまり車の通らないような道ができるということになりました。

 

本書出版の直後に一応、国会で道路特定財源関連法は改正され一般財源化がなされていますが、実態はどうでしょうか。

相変わらず建設費が高額な高速道路や各地のバイパスばかりが建設され、生活道路の改善には手が回らず、通学路に歩道がないという状況も大して変わっていません。

こういった分野での道路族と呼ばれる政治家、官僚、業界の強力なスクラムは変わっていないようです。

 

特定財源の歩み」というのが時系列でまとめてありましたので、転載しておきます。

1953年、道路整備費臨時措置法が成立し道路特定財源

1954年、第一次道路整備五か年計画

1955年、地方道路税創設

1956年、軽油引取税創設

1958年、第二次道路整備五か年計画

1966年、石油ガス税法石油ガス譲与税法制定

1968年、自動車取得税創設

1971年、自動車重量税創設

1974年、揮発油税等を2年間のみ約2倍とする暫定税率導入

1976年、租税特別措置法を改定し軽油引取税を2.1倍にする暫定税率導入

道路特定財源暫定税率に関する法律は時限法だが延々と延長されていた。

 

道路建設が地方に産業と人口を呼び込むというふれこみで進められたのですが、実際には道路建設は「負の効果」ばかりをもたらしたようです。

首都圏への人口集中が進み地方は過疎化が激しくなりました。

これらが道路建設だけによるものとは言えません。

経済成長や社会構造変化、自民党の歴代政権の農林業軽視、公共交通、教育の場の破壊なども大きく関わっていますが、中でも道路建設の影響は大きいというのが著者の意見です。

 

どうやら本書の主張はいったん道路特定財源一般財源化ということで状況が変わっておりそのままでは通用しなくなっているようです。

しかし実態はほぼ変わっていないということでしょう。