爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「生き方の不平等 お互いさまの社会に向けて」白波瀬佐和子著

現代は格差社会でそれがどんどん拡大されていると言われますが、経済状況の格差が広がっているというだけでなく、それをもたらすような各人の状況の不平等の広がりというものの方が大きな問題のようです。

 

そういった不平等の状況について、子供、若者、男女、高齢者といった面から見てその状況を解説し、さらに終章で強調されているように「社会の不平等の存在を指摘することは重要だが、その不平等がどのように作られたかを明らかにすることがさらに重要だ」という認識から分析されています。

その結論から見ていった方が分かりやすいかもしれません。

 

子どもの不平等は、親の状況をそのまま映し出しています。

幼い頃の親の階層化が不平等を作り出し、それがその子供の人生に蓄積されていきます。

親・家族だけでなく社会で子どもを育てられるような介入の制度が必要です。

若者のつまづきは本人の失敗だけでなく社会情勢の波によってももたらされます。

現在は氷河期世代の状況によく表わされているように一度のつまづきが生涯にわたって影を落とすようなことになっています。

このようなことのない制度作りが重要です。

男女の不平等はこれまでの社会制度が大きく関わっており、賃金格差だけでなく昇進機会の不平等など、性別役割分業の規範が作り出した社会制度がいまだに大きく世を覆っています。

高齢者の状況はそれまでの人生の送り方によって大きく差ができており、不平等が見えやすくなっています。

しかしこれまでの結婚し子供を産み育て退職していくといったライフコースに入らない生き方をする人が増えており、その人々への制度の対応が遅れたままとなっています。

 

こういった不平等がもたらす貧困問題はますます大きなものとなっています。

このような状況に陥る人々というものは決して「自己責任」などと言うことはできません。

そのような人々をみて「自分たちも一歩間違えば」といった認識を持つことが難しいのですが、そこで「お互いさま」の意識を持ち制度改革を進めなければならないということです。

 

正規雇用についての話も少し盲点になっていました。

1990年代から非正規雇用は拡大し続けていますが、2000年まではそのほとんどがパート・アルバイトでした。

しかし労働者派遣法が改正されて徐々に派遣労働者が増加していきました。

それでも2008年時点ではまだパート・アルバイトが3分の2を占めています。

その時点での派遣労働者は非正規雇用の6%であったのですが、その苦境が大きく報道され問題化されました。

そこには、「パートは家計補助だから辞めさせられても家計への影響は限定的」な女性が多く、「派遣労働は男性が多く切られると生活できない」という状況が大きかったようです。

 

正規雇用の仕事に就き、結婚して家族を持つというのが主流の人生だとすると、それから外れた生き方へのペナルティというものが存在します。

日本では特にこのペナルティが大きく、高齢男性の一人暮らしではほとんど生活できないような状況に陥りやすいものです。

またこういった状況は地域的な差も大きく、地方の過疎地や限界集落、無医村といったところに住む人々をどうやって支えるかということも難しくなっています。

 

格差というものが存在することは否定できませんが、それ以上に制度上の問題からくる不平等は何とか是正していかなければならないのでしょう。