爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ひとり親家庭」赤石千衣子著

格差拡大で困窮した人々が増加していますが、その中でも特に厳しい状況となっている「ひとり親」の家庭についての本です。

 

著者はご自身もひとり親として子供を育て、今はその支援を行うNPOの代表をされているという赤石さんで、多くの人からの相談を受けて様々な事例と対して来られました。

 

ひとり親家庭、シングルマザー(ファザー)とも呼ばれますが、多くは低収入の仕事しかできず、年収も200万円以下の人がほとんどです。

しかしほとんどの親は低収入の仕事でも働いており「遊んで手当を貰っている」などと言う評判とは全く違う状況です。

ただし、低収入というだけでなく雇用も不安定であり、いつ解雇されるかも分からないような状態で、「子どもが熱を出して数日休んだら辞めさせられた」といった話も数多くあるようです。

 

ひとり親となった事由も最近では離婚が多くなりましたが、中には「非婚」という人もいます。

死別・離婚・非婚とその事由には違いはありますが、社会から見る目はその順に厳しくなっています。

ところが、経済状況などはまったく逆でその順に悪化します。

それは制度上も差別されてきた歴史があり、非婚シングルマザーは手当も貰いにくいといった差別が存在しました。

また離婚の場合でも養育費が貰える人はごくわずかというのが実情で、しかも取り決めてあった約束も守られずに支払われなくなるといった事情が多いようです。

 

ひとり親家庭の子どもたちの厳しさは想像以上で、学校へ行くのもギリギリの状態、大学進学などはとても無理といった例が頻発しています。

学校の勉強でも塾に通わなければまともな成績が取れないと言われても、塾の授業料を工面するのは厳しく、そのために母親が夜に別の仕事に出かけるといった事例も見られます。

 

シングルマザーは生活保護を受けて遊んで暮らす、といった誤解をする人もいますが、実際には生活保護を受けている人たちはごくわずかです。

生活保護はなかなか認められないということが多く、特に地方では自動車を保有しているとおりないために申請をあきらめるという人が多いようです。

その代わり、児童扶養手当制度というものがかなりの家庭を救ってきました。

しかし政府の財政事情により相次いで条件を厳格化され、受給できなくなる人が続出しています。

 

シングルファーザーは母子家庭と比べれば収入が多く恵まれていると言われてきました。

しかし現在の労働環境では子育てのために定時退社などということが認められることは少なく、シングルファーザーでも安定した職場からははじき出されることとなり、不安定な職業に移って収入も激減ということになります。

また子供の世話もできないとして祖父母の助けを借りる人も多かったのですが、今度は祖父母が要介護となり途方に暮れるという例も見られます。

いずれにせよ、職業と家庭というものを両方一人では担うことができないのが日本社会の現状で、男であろうと女であろうとその両方を負わされると二進も三進も行かなくなるわけです。

 

ひとり親が男女を問わず自分の親を頼るという例も多く、それで経済的にも子育てでも良い環境が得られることもあるのですが、逆に親がまったく頼りにならない場合も多く、シングルマザーの稼いだ給料を使いこむ親もいるということで、家庭の事情にも厳しいものがある場合が多いようです。

 

非常に厳しい状況のひとり親家庭ですが、日本では社会の見る目も厳しくそれが制度の整備を遅らせる行政側の言い訳にもなっているようです。

「勝手に離婚しておいて」といった批判をする人がまだまだ多い状況です。

しかし、日本の諸制度が「夫は職場妻は家庭」といった道徳観・家庭観で作られたままというのは今でも多く残っており、そのはざまに零れ落ちたひとり親家庭というものは厳しいものですが、その制度とは夫婦そろった家庭にとっても助けにはなっていません。

個人個人を対象とした制度への転換ということが進まなければひとり親だけでなく誰のためにもなる社会制度にはならないでしょう。