親権という言葉を聞くことがたまにあります。
文字通りにとれば「親の権利」のようですが、どうやらそうではないようです。
この言葉が特によく出てくるのは夫婦の離婚の時でしょうか。
そればかりでなく、親が子供を虐待しているという時に聞くこともありそうです。
そういった問題が専門の弁護士のお二人が様々な実例を挙げて解説しています。
明治民法下では親権というのは事実上、「父権」であり、しかも「親のための親権」であるばかりでなく「家のための親権」でもありました。
家のため、親のため、子どもを服従させることができるという権利でした。
しかし戦後の民法では「子どものための親権」と大きく変わりました。
ただし、若干は戦前の名残とも言える規定が残っており、それは「親権に服する」という表現(818条)、居所指定権(821条)、懲戒権(822条)、子どもの財産の管理権(824条)、未成年の子どもの結婚について同意(737条)です。
誰が親権者となるのか。
これは婚内子の場合は父母が共同親権者となります。
ただし一方が死亡、行方不明、親権喪失などとなった場合はもう一方が行います。
婚外子の場合は母親の単独親権となります。これは父親が子供を認知した場合、父を親権者とすることもできますが、その場合も単独親権です。
事実婚をしていて実際は父母が同居していてもこの扱いと同様です。
養子縁組をした場合は養親が親権者となり、養父母がいれば共同親権者となって実父母は親権を失います。
父母が離婚して母親が親権者となった場合、その母が再婚して再婚相手が子供と養子縁組をすれば養父と実母の共同親権となります。
離婚した場合は父母のどちらか一方を親権者と定めなければなりません。
ただし国際離婚の場合で外国の裁判所によって離婚後も共同親権と定められた場合は日本においても共同親権となります。
親権というものがクローズアップされるのはやはり離婚時です。
日本では離婚時に子どもの親権を父母どちらか一方に決めなくてはならず、離婚届には子どもの親権を記す欄があります。
協議離婚をする場合には必ずこの欄に子どもの名前を記載しなければならず、空白ならば離婚届は受理されません。
この点は協議離婚だけでなく裁判離婚の場合も同様であり、裁判官は離婚判決の中で親権者を決めなければなりません。
近年は離婚の数が増えている以上に子どもの親権を争う事例が増加しています。
これには少子化の影響も考えられ、少ない子を奪い合うという状況が増えているものと考えられます。
現在では離婚時の親権者は母親が圧倒的に多く、2015年には84%が母親でした。
戦前の民法では離婚時には父親が親権者となる規定であり、(母親は監護者にはなれた)戦後も父親が親権者となる方が多い状況が1960年頃まで続いていましたが、その後母親となる例が急増しています。
これには戦後の核家族化、専業主婦化という波が影響し、「母親優先原則」というものが形作られたからでもあります。
これには「三歳児神話」と言われる、子どもが三歳になるまでは家庭で母親が保育することが必要だという、ジョン・ボウルビー、マイケル・ラターらの理論が強く作用し、専門家の間にもその観念が広まったせいもあります。
しかし最近では徐々に父親が親権者となる例が増えているようです。
なお、アメリカ(83%)、フランス(79%)でも日本と変わらない比率で離婚時に母親が親権者となっており、日本の特殊例というわけではなさそうです。
親による子どもの虐待と親権との関係というのも大きな問題です。
親による子の虐待が起こっていることが疑われても親は子どものしつけだと言い張り、公権力などの介入を拒むということが頻繁に起きています。
このような場合に親の親権を制限し、子どもを保護するということが行われなければ事件となる例も多く、その実施のタイミングが問題となります。
2011年の民法改正では親権停止の制度も設けられましたが、その実施状況を見るとハードルがかなり高く簡単に使えるものではないようです。
親と子との問題はますます大きくなっているようにも見えます。
できるだけ子どものためになることができるよう、法律や制度を良く知るということも必要なのでしょう。