冲方さんのお名前だけは見た覚えがありますが、その作品は読んだことがありませんでした。
しかし長く作家業を続けてきて、その経験を作家希望者たちに伝えたいという思いが強いようで、カルチャースクールでの講座も実施したそうですが、その内容を本にもしてしまったということです。
作家になりたいという人はかなり多いようですが、ほとんどの人にはそのチャンスはめぐってきません。
しかし、運よく作品が認められ出版されたとしても、その後継続して何冊も作品を出版し続けるということはさらに難しいことのようです。
冲方さんはそこまで意識して励んできたのでしょうが、かなり系統立てて整理した「作品の作り方」を作り上げ、それを守ることで長らく執筆を続けてくることができたということです。
本書ではその秘訣を16条の原則としてまとめられています。
表題だけを見てもなかなか分かりにくいもので、もしも「長続きする作家」を目指すのであれば詳しく見て頂きたいものです。
それでも列記だけはしておきます。
「WHYを知ること」「言葉の3つの特質を知ること」「文章を知ること」「描写ができるようになること」「物語ること」「課題を設定すること」
まあ、これだけでは抽象的でどこがどうかよく分かりません。
ある程度、執筆ということを考える人にとっては腑に落ちることもあるのでしょうか。
内容はかなり心理的に深いものとなっており、文筆業だけに留まらず色々なものを作り出すという職業にとっても参考になることかもしれません。
物の価値というものは一つに決められるものではなく、様々な側面があります。
価値は変化し続けるものであり、それを捉えることで初めて価値を描写することもできます。
ドイツの経済学者ゴッセンが提唱したことから、価値の逓減の法則というものがゴッセンの三つの法則と言われているそうです。
第一法則は限界効用逓減、第二法則は限界効用均等、第三法則は需要が供給量より少ないものには価格が付かないというものです。
価値には4つの状態があり、期待・逓減・依存・消失です。
価値は期待・逓減・消失の3つの状態を行き来します。
そして依存というのは文明の発達に従って加わった新たな要素であり、依存に入ってしまうと他の価値をすべて破壊してしまうことになります。
現代では、これまでの麻薬やアルコールなどの依存に加え、砂糖・暴食・買い物・窃盗・窃視・性行為・暴走行為などありとあらゆる行為への依存が現れました。
これらの価値を「五感」「空間」「肉体」「感情」「時間」と共に描写できる作家は真に価値のある作品を作り出すことができるということです。
「生き残る作家」という表題から、なにかハウツー的な内容かとも思いましたが、非常に深い内容でした。