爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「『殺しあう』世界の読み方」田原総一朗、佐藤優、宮崎学

ジャーナリストというよりその他の活動がありそうな田原さんが、「日本を代表する論客」とする佐藤優さん、宮崎学さんを招いて鼎談した記録です。

出版は2015年6月ですので、ピケティの「21世紀の資本」が話題となっており、またIS(イスラム国)のテロも頻発していました。

安倍内閣アベノミクスの効果があるかのように見せられていた時期で、これがいつまで続くかと言われていました。

 

世相はかなり変わってしまいましたが、その当時の見方というものは無視はできないでしょう。

 

トマ・ピケティの「21世紀の資本」は多くの注目を集めました。

また、マルクスの「資本論」も今でも考えるべきことを示しているとして再考されています。

この関連についての話から始まっています。

マルクスとピケティの間には150年の年月がありますが、一見その焦点は似ているようにも見えます。

田原さんの指摘では、ピケティの論点の基本は単純なもので、「資本収益率rは常に経済成長率gより大きい、(r>g)」ということだということです。

ただし、時代によってその差が大きい時と小さい時があった。

その要因はどこにあるのか。

佐藤さんはピケティとマルクスは理論のフレームが全く違い、同じ「資本」の話だと考えて読もうとすると不毛な試みとなると考えています。

ピケティの言う「資本主義社会では大戦争以外で格差が本格的に縮まることはない」というのは真実だということはお三方とも同意しています。

 

ただし、ピケティの論じる格差是正の方向性は、国家あるいは国家の連合体が強権を持って抑えるということであり、これはかつてのソ連や東欧、ナチスドイツのような政体になるのではないか、ピケティの世界はファシズムの世界になると佐藤さんは考えています。

 

資本主義が「もう終わり」になる可能性は強いのですが、それ以前に「人類絶滅」の危険性もあります。

たとえばイスラム国が核を持つようになればそれもあり得ると。

中国もロシアも含め今の世界はすべて資本主義ですが、抑える政府と言うものが弱体化しており、資本主義は今よりもっと悪くなる。

中国大陸を徘徊しているのも「あたらしい妖怪」かもしれません。

 

2015年当時、一見うまく回っているかのように見えた安倍政治についても言及されています。

田原さんはその後安倍と会談も重ねたようですが、この時にはかなり批判をしています。

選挙に際して、自民党から「公正報道のお願い」というものが各テレビ局に渡されました。

これは田原さんも佐藤さんも、「受け取ってはいけなかった」と言っています。

その文書をもし選挙管理委員会が出すならまだしも、政党が出すというのは一党独裁の国でなければあり得ません。

放送局に「中立」を求めるというのも間違い、一つの番組の中で「政治的公平」を求めるのも間違いです。

この選挙(2014年衆院選)で、「選挙の争点はアベノミクスだ」と安倍首相が唱え、それをメディアはそのまま報道しました。

選挙の争点を政権が決めるというのは独裁国家の発想です。

それをメディアが言われるままに報道する姿勢も問題でした。

なお、「争点は政権が決める」ということを繰り返し述べていたのが菅官房長官でした。

その程度の人間なのでしょう。

 

国際関係についての話で、「敗戦国日本の戦争総括」についても語られています。

第二次世界大戦は色々な性格を持っていたため、その都合の良いところを取り出して議論する人間がいますが、どこに重点を置くかで話は違ってきます。

しかし、連合国の勝利、枢軸国の敗戦で決まった戦後体制そのものを否定する「ちゃぶ台返し」をしてしまうと、第1次世界大戦後の世界でのナチスドイツの行動とつながります。

安倍の言う「戦後レジームからの脱却」がどの程度真剣に考えられているか分かりませんが、もしも1951年のサンフランシスコ講和条約を変えてしまおうなどと言う考えがあれば大変なことになります。

ドイツは戦前のナチスとは完全に別の国と言うことにしてしまい、総括しましたが、日本はそこがあいまいになってしまった。

しかし、アメリカは現在の日本国とかつての大日本帝国はまったく別の国だと認識しています。

そこを日本側から異議を唱えるような主張をすることはできないでしょう。

 

なお、ドイツは戦争の総括をしっかりやったけれど、日本はと言われますが、実はドイツもソ連(現在はロシア)との間に平和条約は結んでいないそうです。

日本は北方領土問題があるために平和条約交渉は難航していますが、ドイツも数々の領土問題があり、進んでいません。

そもそも、東ドイツをめぐる話すらできませんので、当分無理でしょう。

 

田原さん、佐藤さんは孫崎享さんが「対米従属」について激しく批判していることについて、厳しく反論しています。

「対米従属していない国がどこにあるのか、それは北朝鮮、イラン、シリアだけだ」ということです。

対米従属から脱して自立するというが、ならば北朝鮮路線でいくのか、イラン路線でいくのか、まったく非現実的な話だということです。

まあ、それはそうでしょうが、ただ程度問題では日本は最悪の従属度合いでしょう。

 

中身のあちこちに気になる部分はありますが、まあかなり参考にはなりました。