選挙というもので政治体制が決まるという、民主主義の大本とも言えるのですが、その実効性、公正さなどなど、はっきりしているとは言えないと感じています。
そういった点を描いている本かと思いましたが、この本は中央大学の政治学の教授である宮野さんとおそらくその門下と思われる方々の、選挙に関係する基礎研究をまとめたものであり、やや求める内容とは違うものと感じてしまいました。
内容は、外国人参政権(安野)、フランチャイズ政党と候補者公認(リード)、ボランティアの選挙運動(高橋)、住民投票(塩沢)、投票率データ(宮野)です。
(カッコ内は各章の著者)
内容的に面白かったのは、スティーブン・リードさんが書かれた「勝てば自民党」というところです。
万年与党とも言える地位を築いた自民党では、地方でも支配体制の中核となっていますが、その各地の情勢次第では「自民党公認候補」というものがすっきりと決まらないということも往々にしてあります。
そのような状況を収める方策というものが「勝てば自民党」というものです。
これは、今でもしばしば目にするものですが、自民党の公認が決まらなかった場合に、競う候補がどちらも無所属として選挙に出馬し、当選した方が自民党に改めて入党して事後に自民党公認であったように装うというものです。
現在の小選挙区制でも出現しますが、かつての中選挙区時代には多くの事例があったようです。
1958年に自民党として始めて戦った選挙の際に、次の原則を定めました。
1、定数以上に公認しない。2、刑事事件取り調べ中の候補者は公認しない。3、当選できない候補者を公認しない。
なにか、言うのもバカバカしいほどの基準ですが、実際にはこの基準すら満たさなかった例が頻発したそうです。
このような状況を作り出す政治体制を、リードさんは「フランチャイズ政党」と呼んでいます。
もちろんこれは、コンビニなどに見られる資本は地元で名前だけ中央からという「フランチャイズ制」を意識して付けられた名前です。
非常にうまく表現したものと思います。
選挙の投票率というものは、総数は正確なものが発表されますがその内容はそれほどはっきりと分かっているわけではありません。
しかし選挙の動向を分析する上では、選挙の投票率というものを男女別、年齢層別、地域別等で分析していくということは重要なものとなります。
これを論じているのが最終章の宮野さんの書かれた「投票率の基礎データと分析」という章です。
広く論じられている「年齢層別の投票率」ですが、これもはっきりとしたデータ公開がされているわけではなく、極めて限られた範囲内のデータを基に推計されているもので、かなりの誤差を含んでいるということです。
例えば、自治省が発行している「選挙結果調」というものも選挙の全数から得られたデータではなく、何らかの統計手法で抽出した限られた範囲のものを解析しているようです。(実態は発表されていません)
そこには、抽出方法によって生じる誤差というものがかなり発生しています。
この原因を宮野さんが推察していますが、どうやら「各都道府県の市町村から原則として1投票区ずつを選ぶ」ということをしているためだそうです。
選挙というものは、もっと真剣に考えなければならないものだと思いますが、これを決めるべき国会というところが現在の選挙制度で選ばれた議員らによって運営されているという最大の矛盾を持っています。
「泥棒に刑法を決めさせる」ということを前から私は言っていますが、この情勢を何とかしない限り、公正な選挙制度はできないものと思っています。