私もこのブログで、現在の日本の選挙制度が犯罪的と言えるほど歪んでいることを指摘していますが、それを憲法学者や弁護士といった専門家の方々がまとめた本です。
言うまでもなく、現在の間接民主制というものの中では選挙制度というものが政治の在り方というものを大きく左右します。
歪んだ選挙制度のもとで民意を無視した政治を可能とし、それに対し嫌気がさした国民が多くなることでさらに少数の賛同のみで政権が成立するような状況となっています。
現在の衆議院議員選挙は小選挙区比例代表並立制という制度になっていますが、それは1994年から変更されたものであり、まださほど年数が経過しているわけではありません。
しかし、その制度によって日本の政治自体が大きく歪められています。
小選挙区制は一つの選挙区で一人だけが当選するというもので、第1党を過剰に利する制度と言えます。
2005年の「郵政民営化選挙」では、自民党は得票率47.8%で議席占有率73.0%を獲得しました。
第2党であった民主党が得票率36.4%で議席はわずか17.3%しか取れなかったということです。
しかも、この時の選挙では郵政民営化に反対する自民党議員を小泉総裁は自民党として公認せず、いわゆる「刺客」という対立候補を立てるということをやりました。
この時はすでに政党助成金制度というものが施行されていたために、公認候補には助成金から選挙資金が支払われたのに対し、非公認候補にはそれがなく不利な闘いを強いられました。
そもそも、戦後の衆議院議員選挙制度は中選挙区制から始まりましたが、早くも1950年代には憲法改悪を目指して議席占有率を上げようとした小選挙区制導入の動きが当時の政権から出されましたが世論の反対で潰されたということがありました。
それが、1990年代になり自民党の支持基盤であった農民層や中小企業が弱体化し(それも自民党の政策の結果です)自民党支持層が減り続けるという事態になりました。
そこで起死回生の策として浮上したのが小選挙区制でした。
そのキャンペーンとして、小選挙区制にすれば『政治腐敗がなくなる」「政権交代ができる」といったあたかもこれが政治改革であるかのような宣伝がなされ、国民はそれに騙されてしまいました。
アメリカでは長く小選挙区制による連邦議員選挙が行われ、共和党・民主党の保守系二大政党が固定化しています。
その選挙では投票率は所得階層によって異なり、高所得層の投票率が90%以上と高いのに対し、低所得層の投票率は10%と非常に低くなっています。
アメリカの政治が高所得層のみのために行われているのはこのような選挙制度から来ていると言えます。
イギリスは小選挙区制の元祖のようなものであり、1885年には現在の小選挙区制となっています。
その当時は保守党・自由党の2大政党制でしたが、その後自由党は没落し代わりに労働党が2大政党の一角を占めることになりました。
そこでも新興の自由民主党が勢力を広げるのですが、得票率20%を得ても議席は3%にしかならないという矛盾が広がります。
国民の中にも比例代表制を求める声が出るものの選挙制度の改正はできません。
そもそも、日本の衆議院議員選挙制度であった「中選挙区制」は不十分なものではありましたが政党支持率と議席数が近くなる「準比例代表制」と言えるものでした。
それを小選挙区制に切り替えたことで、自民党内の派閥の争いは少なくなりましたが(それが良いかどうかは別として)国会内での少数派の意見が無視されることが多くなり、その後の法改定や新法制定で多くの疑問点が出てきています。
選挙運動の規制も日本は独自の厳しい条件を課しており、それがあの選挙運動カーに乗って名前を連呼するだけの選挙となり、国民から背を向けられる要因ともなっています。
戸別訪問の禁止、事前運動の禁止、ネット選挙運動の禁止、公務員・未成年者の選挙運動の禁止、といった諸外国には見られない厳格な規制が日本の選挙法の特徴となっています。
ただし、このような制限をつけていないイギリスなどでも国民の政治意識は劣化し「観客民主主義」に化しているとも言われていますので、日本の選挙制度はどうすればよいのかということは簡単な話ではありません。
「選挙の自由」と「選挙の公正」を両立させるということは難題のようです。
おかしなところだらけの選挙制度のようですが、それを審議するのもそれにより選ばれた議員たちであり、改正は困難でしょう。
それを変えさせるためには国民の自覚が必要なようです。