作家の池澤夏樹氏は大学は物理学科で学んだという理系の人物で、これまでも科学関係のエッセイなどは書いていたそうですが、それを本格的にまとめてみたという本です。
内容は物理関係だけにとどまらず、生物や進化、AIまで広い内容になっていますが、どれもかなり深いものを含んでいます。
日時計もかなりの精度のものがあるようですが、その一つ、ホフマン・アルビンという人物の作ったものが市販されているそうです。
そのうたい文句には「計算上の誤差は1秒、読み取り誤差は30秒」と書かれているのですが、果たしてそんな精度があり得るのでしょうか。
実は太陽は当然のことながら点光源ではなく視覚にして0.5度の円盤です。
これは太陽が自分の直径だけ動くのに2分かかるということです。
日没の場合、水平線にかかり始めてから完全に沈むまで2分です。
つまり、太陽の影にも2分分の幅があるわけで、「理論上誤差1秒」は無理でしょう。
ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」についての言及もありました。
私もこれは読んでいますが、その歴史的な観点は優れているものと感じました。
本書でも同様の感想が述べられています。
特に認知革命と農業革命については鋭い指摘だとされています。
ただし、人類の将来に対してはハラリのように楽観的には見ることができないということで、それも当然でしょう。
AIについても考察されています。
「考える」ことはAIにもできるが、「思う」ことは人間にしかできない、というのは当たり前すぎる感想ですが、事実でしょう。
「人間がみなそんなに創造的な仕事をしているわけではない」から「それはAIで置き換えられるだろう」というのは厳しい現実です。
これまでにも多くの職業が無くなっていきました。
天文学のために莫大な計算をすることを仕事とした人々、筆耕者、写字生、植字工という仕事をしていた人々はもういません。
こののち消えていく職業は、電話による販売員/データ入力/銀行の融資担当者/金融機関の窓口係/レジ係/料理人/給仕/タクシー運転手 だそうです。
なかなかレベルの高い科学エッセイと感じました。