爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「2時間でわかる 問題なニッポン」鳥越俊太郎著

現代ニュース用語(それが出版時の2007年当時のだというのが、いつもながら古い本ばかりの市立図書館の辛さなんですが)を取り上げて、ジャーナリスト(と呼ばれるのは本人はお嫌いだそうで、”ニュースの職人”と自称しているそうですが)の鳥越俊太郎さんが簡潔な解説を行なって、それだけ読めばかなり詳しくなれるというものです。

 

ただし、3章に分かれていて、社会・世相編、政治・経済編、科学・環境・医療編となっています。

やはり鳥越さんは政治経済がご専門でしょうか。

科学編では少々勘違いをされている問題もあるようです。

 

こういった「現代知識の解説」といった本をジャーナリストが書いている本というのは時々読みますが、だいたいのものでは科学系の問題の誤解や勘違いが見られるようです。日本のジャーナリズムの科学知識の底の浅さが見え隠れします。

まあそれは置いておいて。

 

冒頭の項目は「赤ちゃんポスト」です。

熊本市の慈恵病院が設置したもので、もう10年になるんですね。

解説にあるように当時から賛否の議論が非常に盛んでした。今でも時々状況の報道がされていますが、まだ多くの子供が預けられている(というか捨てられている)そうです。

ただし、本書では鳥越さんは貧乏ゆえの捨て子よりは子供が邪魔だから捨てるというケースが増えていると断じています。

 

グローバル化進展の項目では、その必然の副作用として格差社会の激化と結びつけています。

それは適切だと思いますが、その中で日本が何ができるかという点では、貧しい国への人的な援助が効果的ではないかという提言をしています。本気とすれば甘いかも。

 

食料自給率40%以下という問題では、他の先進国(オーストラリア、アメリカ、フランスなど)と比べてはるかに低いと問題視。

食の安全管理は絶望的という捉え方です。

エピソードとしてご自分が有機野菜を取り寄せて食べているという話ですが、驚くほど旨いという感想です。

有機野菜が味が良いというのは単なる思い込みに過ぎません。

「有機」だから旨いのか、その生産者の栽培法が良いから旨いのかという点をまったく配慮していません。その生産者が作った「慣行栽培」と「有機栽培」とを比較し、有機栽培が有意に品質が上であることが確かめられた場合のみにそう判断できるのですが、そのような手法を取って主張した例を見たことがありません。

このエピソードだけでも鳥越さんが科学的品質評価という点を理解していないことは明白です。

 

集団的自衛権を安倍が最初に語ったのは、この本執筆時の前の第1次内閣の頃でした。

その志半ばで辞任したと本書には書かれていますが、まさかその後首相復活し執念を燃やして集団的自衛権に突き進むとは。

個別的自衛権を行使できる権利は日本は認めているが、集団的自衛権は放棄したというのが鳥越さんの理解であり、間違いないでしょう。

そこを意識的に曖昧にして一気に集団的自衛権に突き進んでいるのが、前よりはるかにずる賢さを強化した安倍内閣がやっていることです。

 

二大政党制については、ちょうど民主党参議院で勝利した直後の時期だったので、期待が大きかったようです。

二大政党による政権の交代により政治の腐敗が防止できるというのがその根拠だったのですが、あまりにも甘い観測だったということを現在の鳥越さんは感じているでしょうか。

 

さて、問題の科学編ですが、

温室効果ガス削減の問題では、日本の公式見解にまったく疑問を持っていません。

まあそれはたいていのジャーナリストがそうですから、仕方ないにしても、取るべき施策として「ペットボトルを回収すれば10円貰えるというシステムを自治体が主導する」のがどこが「効果的」でしょう。

二酸化炭素削減のためには、化石燃料消費の劇的な削減しか方法がありません。それはこのブログでも何度も主張していますが、そのための効果的な方法は「自動車社会からの転換」しか無いものと信じています。

 

次世代エネルギーでは、「水素が最有力」ということですが、その根拠はどこから得ているのでしょう。

水素エネルギー使用の最大の問題点は「どうやって供給するか」です。

文中には少しはその点が分かっているのか「現在は石油や天然ガスから取り出されているが、やがては太陽光や風力、水といった自然エネルギーから水素を製造する」と書いてありますが、エネルギー効率という問題を分かっていません。

水素を取り出すために石油を使うというのはまったくの無駄であり、石油を直接燃やすほうがはるかに効率的です。

太陽光や風力を使うというのは、電気に変換して水を電気分解するのですが、発電の段階、電気分解の段階と100%の効率で変換できるはずもなく、どんどんと実質的に使えるエネルギー量は減少していきます。水素になる頃にはバカバカしいほどの効率になっているでしょう。

結局、水素の存在価値は石油やガスの代わりに自動車の燃料に使えるかどうかという点だけです。それも極めて疑問ですが。

 

以上、事例によっては極めて残念なものもありましたが、他のものでは簡潔で分かりやすい解説であったと言えるでしょう。