夕方のテレビをボーッと見ていたら、続けざまに農業関係の話題をやっていました。
一つは熊本ローカル番組で、県内のある町で有機農業の講座を開くというものです。
まあ、それは勝手にやってちょうだいなという程度のものなのですが、そこで出てきた場面が、畑で取ったすぐの土の付いた野菜を食べて美味しいというお決まりのものと、有機野菜で作った料理を食べてすぐに、わー美味しいとコメントするというものです。
有機農業とは言うまでもなく化学肥料や合成農薬を使わずに栽培する(使えるものもあります)というもので、農作物以外の生物を排除することなく自然状態に近づけることで環境を守るという意味があります。
そういった効果は否定しませんが、どうしてもコストが高くなり生産物も高価となるためにそれを売るには「美味しい」とか「身体に良い」という言葉を連呼するという傾向があるようです。
有機栽培の作物は美味しいのかどうか。
これは比較の仕方がまったく科学的でないということが多いようです。
有機栽培の農作物が美味しいとしても、それはその栽培を行った人の技量が優れているということによるという要素が大きいのでしょう。
有機栽培を志す人はやはり相当農業に対しての知識も技術も優れているのでしょう。
そういった人々が作る作物もやはりかなり良いものができても不思議はありません。
それを比較する対照として、慣行栽培(農薬も化学肥料も普通に使う)の農作物を考えるのでしょうが、そこに「普通の農家が作った慣行栽培の作物」を持ってきたのでは科学的な比較にはなりません。
ここは、その有機栽培の農家が、有機栽培と慣行栽培を同条件で実施して作った作物で比較しなければなりません。
つまり、同じ農家ができるだけ近い位置の畑で一方では有機栽培を行い、一方では慣行栽培を行う(なおもちろん手抜き・依怙贔屓はなしにしてもらわなければなりません)という試験栽培が必要です。
さらに、栽培以降は本人もどちらか分からないよう、収穫するのも第三者に任せて比較試験を実施する必要があります。
ここまでやって、しかも官能試験の実施者を相当数準備し、それで統計的にも意味のある差が出たら栽培方法の影響があるということが立証できます。
有機栽培の作物が身体に良いのかどうか、これも学問分野でも色々と議論されているのですが、まだはっきりとした結果は出ていないはずです。(というか、ほとんど否定されているのですが執念ぶかく試験が繰り返されています)
残留農薬がありそれが健康に悪いなどと言う説は論外ですが、栄養素などが栽培方法で差が出るかどうかは微妙な問題でもあり、また試験の方法整備が難しく意味のある結果を出すのは大変でしょう。
とにかく、栽培条件や環境の影響、品種の差など影響が出る条件が多過ぎ、なかなか試験条件を標準化することは難しいと思います。
なお、冒頭にあげた番組内の光景で、畑で採れたばかりの土の付いた野菜をそのまま食べるというのは、どのような状況であってもすすめられません。
有機栽培であっても慣行栽培であっても、畑土壌中には非常に多数の微生物がいるのは当然であり、それがすべて健康に影響のないものとは言えません。
そういった番組を見た後、チャンネルを変えると今度は「野菜工場」の話を全国版放送でやっていました。
どうやらコロナ禍で業績の悪化した企業がテナント撤退で空いたビルと余った人手を使いビルの中で野菜工場で野菜を栽培、それをすぐに加工しビルの1階のレストランで提供するという形だということです。
野菜工場といえば、かならず「レタス」や「ハーブ」
それが必要光量も少なく装置としても作りやすいのでしょう。
ジャガイモやタマネギ、ダイコンといったものは見たことがありません。
売り文句はここでも「清浄な環境なので農薬などは要らない」ということです。
その清浄環境を作るためにどれほどのエネルギーを必要としているのか。
HEPAフィルターを装備した換気装置を設置するだけでも大金が必要ですが、それを稼働させるための電力も大きなものです。
さらにもちろん光源として使われる電力量も、いくらLEDにしたとしても相当なものでしょう。
これもコストがまったく合わないのは間違いなさそうです。
しかも、ウクライナ戦争によるエネルギー危機で石油や天然ガスの価格も高騰、電気料金が値上げになるというニュースが流れたばかりです。
新電力会社が相次いで倒産しているというニュースも耳にしました。
そのようなエネルギー状況が切羽詰まっているのに、エネルギー無駄使いとしか言いようがない野菜工場などに振り向ける余裕は無いと思いますが。
まあ報道というのはあまり論評はせずに事実を伝えるということなのでしょうが、何をどう報ずるかということはそのメディアの価値観をも示しています。
無批判にこういった農業を報じるということは、その局の考え方だということでしょう。