爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本は日本のやり方で行け! アメリカに負けない方策」ビル・トッテン著

アメリカから日本へ来てこちらで事業を起こした著者ですが、その過程でアメリカの戦略と日本の政府のそれに対する隷属に気付き、厳しい言葉で糾弾し続けたためにアメリカ政府のブラックリストに載ってしまい、アメリカ帰国もままならなくなったために日本に帰化しのですが、彼が1998年に当時の情勢について日本人が見ようとしないアメリカのやり方についてどこが変かということをさまざまに解説しています。
それからかなりの時間が経っていますが、どうもここで指摘された事実は収まるどころかさらに激化してしまい、本書中で予告されているようにアメリカに追従した政策で日本の格差激化などが起きています。その先見性は驚くほどですが、その過程を見続けてきた著者の無念さは想像するだけでも絶大なものかと思います。

1998年当時は日本はバブル崩壊の余波が続きなかなか回復できないまま巨額の財政赤字を続けつつ景気回復を目指していた時期ですが、ニューエコノミーとかビッグバンという言葉に踊らされるような時代だったことは記憶にあります。
しかし、そのようなニューエコノミーなるものは実はアメリカの金持・投資家の思惑に従ったものであり、彼らに貢ぐだけのものでした。規制緩和ダウンサイジンググローバル化というものが富を一部の金持に集めるだけのものでしたが、それを求めるアメリカの投資家とその意のままのアメリカ政府が日本に押し付けてきたものを、植民地のようにただ受け入れるだけでした。
それをあたかも世界の趨勢でもあるかのように日本人に思わせて押し付けたのが日本政府の政策でした。

ニューヨーク在住のエコノミストというマイケル・ハドソン氏の主張を引用していますが、1985年のプラザ合意というものはアメリカの金融帝国主義がいかにして日本を滅ぼすかという政策のために行われたものだったということです。ドルの為替相場を安定させるということが目的と言われましたが、実はアメリカの貿易赤字の解消を日本にさせるために、日本の貿易黒字をアメリカ国債購入に当てさせるのが一番の目的だったそうです。それにより日本が過度の低金利となったために資金が流入してバブル経済に突入してしまいました。この結果日本は大きな痛手を被ったのですが、それもこのアメリカの政策の副作用だったということです。

現在でもさらに力を強めて主張されている「グローバリゼーション」ですが、本書ですでに喝破されているように、「グローバリゼーションで利益を得た国民はどこにもいない」ということです。これは今でも変わらぬ真理でしょう。グローバルスタンダードと言われるものもじつはアメリカンスタンダードにすぎないのですが、アメリカもこのスタンダードで一般の国民は大きな被害を受けており、儲けているのは金持・投資家だけだそうです。

保護主義というものが諸悪の根源のように言われていますが、実は「新保護主義」というものが必要だというのが著者の主張です。「日本再鎖国論」とも書かれています。
鎖国しても日本は困りません。日本の輸出は当時で40兆円くらいということですが、この半分は日本の上位30社の企業で占められています。これらの大企業を潤すためだけの政策で他の一般日本人が危機にさらされるということです。これは2015年の現在でもまったく変わらない状況であるのは驚くほどです。しかも今はその政策が現実のものとなっているために、庶民が大きな痛手を実際に受けています。

戦後教育というものが、道義を忘れた人間を作り出してしまい、それが指導者となった頃から日本の凋落は始まってしまったということです。経済をあたかも博打のように扱う経済人・政治家が日本を危機に陥れようとしていると本書にあります。そして、陥れてしまったというのが現在の状況でしょう。