爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アメリカと中国 もたれ合う大国」スティーブン・ローチ著

トランプ政権で厳しさを増した米中関係はその後もさらに激化し戦争すらあり得るという状況にも見えます。

しかしその一方で貿易の関係は減ったようにも見えず相変わらず相互依存体制であるようです。

このような米中関係というものをこれまでの歴史的な展開から現状まで詳しく論じています。

 

著者のローチさんは1990年代にはモルガン・スタンレーでチーフ・エコノミストを務めておりその後も大学の研究員としてアジア関係の経済を研究しているという人で中国の経済については専門家です。

 

本書出版は2015年でありトランプ政権でまたかなり情勢は変わっていますがその基本としては本書の通りでしょう。

中国は米国債の最大の保有国であり、中国の輸出品の最大の輸入国がアメリカであるという構造は、現在では日本の米国債保有が増加はしているものの大きな変化はないのでしょう。

 

このような関係の構造はそれほど昔から続いていたわけではなく、中国が市場経済を取り入れながら国力を増強しようとしていた時期にアメリカの思惑と上手く適合して作り上げてしまいました。

アメリカの貯蓄性の極めて低い状況は昔から変わらず、それにも関わらず消費をしたいという国民の志向を満足させるための相手として、米国債を買いながら安い製品を作ってアメリカに輸出する中国というものは格好の存在でした。

中国側としても有り余る貯蓄を使う術もなく、製品製造による経済成長を成し遂げる手段としての対米関係は都合の良いものでした。

しかしそれが限界を突破しどちらにとっても耐え難いものとなっても止めるわけは行かないというのが現状なのでしょう。

 

とはいえ、世界の経済構造の中では米中貿易の中身はかなり変化しています。

1980年代には中国からアメリカへの輸出品は半導体チップの他にはアパレルや玩具などの非耐久消費財が主でした。

しかし現在ではその他多くの耐久消費財を中国で生産しアメリカに輸出していますが、その半製品は中国が他国から輸入し、国内で組み立てています。

そのすべての価格を「中国製品」として統計でとらえていますが、中味の60%は他国の生産額とすべきところです。

 

世界の貿易というものが、かつての第1次グローバリゼーションとでも言うべき状況と今の第2次グリーばリゼーションとでは相当意味が違ってきています。

グローバルな輸送・出荷システムが世界中に張り巡らされている上に、インターネットによる情報通信の高速化が大きな変化をもたらしました。

技術の伝播と吸収の速度というものも驚くべき展開を見せています。

 

米中関係の悪化に伴い、中国は米国債の投げ売りという脅しも使うようになりました。

ただし、実際にそれをやってしまえば中国の保有分も暴落してしまい共倒れになりかねません。

それでも2015年には「米国債の購入を控える」という手段に出ましたが、それを予期していなかったアメリカ政府は狼狽しました。

 

本書執筆時には日本は安倍政権発足の直後でしたが、それについても少しだけ言及されています。

アベノミクスの3本の矢というものを取り上げており、積極的な金融緩和策を取ることを紹介しています。

しかし、一方では「ないがしろにしてきた項目の長いリストを放置している。柔軟な雇用・移民政策、企業のリストラや倒産をしやすくする規制緩和、サービス部門におけるITを活用した生産性向上、ポスト原子力エネルギーの戦略、巨大な郵便貯金制度改革など」と指摘しており、これらをほったらかしにしたままの金融緩和による一時的な回復はすぐ色あせてしまうだろうとしています。

見る人は見ているというところでしょうか。

それを色あせたとも思わずに10年以上も続け、さらに継承すると言っているのが今の日銀ということでしょう。

 

このような「もたれ合ったまま」の米中関係でどうやって戦争などをするつもりなのでしょう。

まさしく、「ただのポーズ」なのでしょうが、それに踊らされて巨額の米製中古兵器を高く買わされる日本のバカさ加減に呆れるというところです。