爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アメリカのベジタリアンはなぜ太っているのか」矢部武著

ベジタリアン”と”痩せている”ということは本来は直接関連するものではないのですが、大体普通に想像できるベジタリアンという人々は痩せているイメージでしょう。しかし、アメリカのベジタリアンは決してそうとは限りません。

著者の矢部さんはジャーナリストでアメリカ滞在も長く、その後日本に戻ってからも米紙の東京支局長なども勤めたあとフリーになったそうで、アメリカ人というものについても相当深くご存知のようです。
アメリカ人というと、民主主義を世界中に押し付けるとか正義ばかり口にするとかのイメージがあり、共通の祖先を持つイギリス人やイタリア人などヨーロッパの人々と比べても相当違うイメージです。その辺のところを詳しく分析されています。

本書冒頭にあるように、そのようなアメリカ人を揶揄したり批判する本は五万とあるようですが、それをさらに心理的に分析してやろうというのが本書執筆の動機とのことです。
ベジタリアンという人々はもちろん健康のためにそれを選ぶわけではなく、動物を殺して食べるということについての拒否感からそうなるのでしょうが、やはり健康という面も否定はできないでしょう。ベジタリアンに限らず、アメリカ人は食生活と健康ということについて非常に気にする傾向が強いようですが、実際には肥満者が多いということです。常日頃食べ物に気を使っているように見えながら実はジャンクフードを食べ過ぎてしまうという人が多いようです。どうやら食べるという行為と感情のコントロールが結びついてしまい、やけ食い、どか食いとなってしまうことがあるようです。
しかも、深刻な状況になっても簡単に解決する方法がないかと探し回るようです。サプリメント大国であることは良く知られていますがそれもこういった心理からくるようです。

また男女平等ということはアメリカ発で言われているようにも見えますが、実際は女性の地位は決して高くはなく、企業のトップ、政治家などもヨーロッパに比べると女性の比率が低いようです。(ただし、日本は比べ物にもならないのは言うまでもありません)ヒラリークリントンが大統領の一歩手前まで到達しましたが、これまでにも大統領を目指した女性は何人かいたようです。しかし、それらの人々が動き出すと周りのあちこちから様々な横槍が入り結局だめになってしまったということが続いています。アメリカで女性が選挙に立候補すると、「女性だからだめ」といった直接男女差別を表現することはありませんが、「この候補者は○○すぎる」といった言われ方をされることが多いようです。例えば、「年を取りすぎている」「若すぎる」「出身州が小さすぎる」等々です。男性候補者ではそのような批判はまったくされないのに女性候補者だとこのような批判が横行するのは女性拒否と同様です。
アメリカ人の建前は決して差別は許さないということですが、本音は強力なものがあるようです。

ビジネスや政治・学会など、アメリカでは完全に能力社会であり、コネや家柄など関係ないと表面上は見られていますが、実は「アメリカ人は外見が9割」だそうです。そのため美容整形が蔓延しており、そのような手段を使ってでも若々しい肌や白い歯などを手に入れた人の方が成功できるようです。外見と雇用状態を調査した研究によれば、勤続年数・学歴などが同等で、外見により区分した場合、外見の良いグループは悪いグループに比べ男性で給料が10〜15%、女性で5〜10%高かったということです。

またアメリカが世界一の格差社会であるとは言われますが、アメリカ人の価値観は物質至上主義で高いものを多く持っているということで人間の価値を判断してしまうそうです。また金持ちはさらに金を儲けるようにできていて、機会は均等などというのは絵空事でアメリカンドリームなどというものも極めて稀なことなのです。

著者はアメリカ人の心理を分析し様々な事例を挙げていますが、実は日本人もこれを真似て追随してしまっています。グローバルスタンダードなどと称し、それに価値があるかのような風潮ですが、実際はこのような病的なものでとても世界の行く末を託せるようなものではないようです。