爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「心理学を変えた40の研究」ロジャー・R・ホック編

心理学に限らず科学の分野においては画期的な研究が実施されてそれによって分野全体が変えられ、あるいは進歩するということが常に起きています。

 

そのような心理学全体を変えるような大きな影響をもたらした研究を40選び、それがどのような仮説を基に、どのような方法で実施されたか、そしてどのような実験結果が得られてそれに対して議論がなされたか、さらに科学研究では必ず起きるはずの、その研究に対する批判、そしてその後の研究動向までコンパクトにまとめられたものです。

 

まえがきにもあるように、この本はこれから心理学を学ぼうとする学生、そして心理学専攻でこれから論文を書こうという学生にとって、非常に良い参考となるでしょう。

なお、「心理学とは疎遠な生活を送るビジネスマンなど」も「心理学者が繰り広げる知的ドラマ」として楽しめますとありますが、これは本が売りたいという商売上の言葉でしょうか。

 

もちろん、私も含め理系の他分野の学生であった人々から見れば、「自分の分野でもこういった本があれば良かった」と思わせるものです。

 

E.F.ロフタスという研究者が行った、「誘導尋問と目撃証言」に関する研究は、心理学の中だけにとどまらず、犯罪捜査や裁判など多くの分野で非常に大きな影響をもたらした重要なものでした。

犯罪の「目撃証言」が、「本当に見たこと」だけでなく、それ以外のところからもたらされた「ニセの記憶」によって変化していくということを、実験として明確にしました。

これは、目撃者が嘘をついているなどということではなく、後からの働きかけで記憶が変換され、本人もそれが真実だと思い込んでしまうという、人間の記憶というものの成り立ちを明らかにするものでした。

こういった、心理学上の明快な理論があるにもかかわらず、相も変わらず警察や検察などは目撃証言を鵜呑みにしてしまう事例が多いようです。

また、この問題はアメリカで頻発した「幼児の性的暴行で親を起訴」といった馬鹿げた事件にも関係しており、「実際にはなかったことを思い出す」ということが起きていたようです。

 

1966年に発表された、W.H.マスターズとV.E.ジョンソンによる「人間の性反応」という論文も、社会に大きな影響を与えたものでしょう。

その当時は、被験者を確保するということが困難と予想されたため、マスターズたちは最初はプロの売春婦(男女とも)に依頼して実験をスタートさせたそうです。

しかし、そのような人々は一般的な反応を見るという目的には不向きだとして、その後はボランティアの被験者を探したそうですが、それほど苦労せずに見つけられたそうです。

彼らの一連の研究は今でも引用されているそうで、この分野での開拓者としての業績は素晴らしいものであったと言えるでしょう。

 

心理分析などに応用されることもある、ロールシャッハ・テストのロールシャッハの論文も挙げられています。

1942年に発表された「精神診断学:認知に基づく診断テスト」というものですが、これは本人も予測した以上の影響をもたらしたのですが、当初から議論も批判も激しかったようです。

最近でもまだロールシャッハ・テストの有効性に関する論文が出てくるとか。

 

心理学という分野は、専門の研究者でなくても魅力を感じるようです。

 

心理学を変えた40の研究―心理学の“常識”はこうして生まれた

心理学を変えた40の研究―心理学の“常識”はこうして生まれた

  • 作者: ロジャー・R.ホック,Roger R. Hock,梶川達也,花村珠美
  • 出版社/メーカー: ピアソンエデュケーション
  • 発売日: 2007/05/16
  • メディア: 単行本
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