いつも鋭い視点と正確な分析で世界の情勢を説明している池上さんですが、これは2017年2月、アメリカでトランプ大統領が就任した直後に書かれた、トランプ政治についての観測です。
それから2年弱経過していますが、この本で語られていることはいくつかは違う様相を見せているものもありますが、大方のところは予測どおりと言えそうです。
2016年、大統領選挙の予備選の段階から池上さんは何度もアメリカに入りその経過を見てきました。
トランプの選挙運動はこれまでの候補者とは異なった様子でした。
まず第一印象は、白人の男性ばかりの集会だったこと。
そして、通常の候補者はこれからアメリカをどうするかということを主張するのですが、トランプは不法移民を追い返すぞ、メキシコに壁を作るぞ、中国から安い製品を輸入できないようにするぞ、といったスローガンを繰り返すばかりで、それをどのように実現するかと言ったことは一切言いません。
ただスローガンばかりを怒鳴るだけで、30分くらいで終わってしまいます。
それでも支持者たちは熱狂していたのです。
「偉大なアメリカを取り返す」と言うだけで、なんとかしてくれると言う幻想を抱かせただけです。
トランプはアメリカの体制全体に対しての批判をしていました。
しかし、具体的にウォール・ストリートを批判したことはありません。
聴く方が勝手にウォール・ストリートも批判しているように思っていただけで、逃げ道はちゃんと用意されていました。
その結果、大統領になってみるとその重要閣僚には経済界から多くの人々を迎えており、そのような政府がウォール・ストリートの不利になるような政治をするはずはありません。
ここでも公約に反するようなことはしていませんが、そう思わせたということには口をつぐんでいます。
アメリカが世界の警察の役割を果たしてきたこれまでとは違うというのは、トランプが最初から言っていたことですが、そのとおりになりそうです。
ただし、これは今ではずっと続いていたかのように思いますが、実はこのような役割を果たすというのはせいぜい第2次世界大戦後の世界でのことであり、それまではモンロー主義という外交政策でアメリカ大陸孤立主義という風に振る舞っていました。
第1次世界大戦もギリギリまで参戦せず、国際連盟にも不参加、第2次大戦ももし日本が真珠湾攻撃をしないままアメリカとは事を構えなければ積極的に参戦することはなかったかもしれません。
その後はソ連との冷戦の中心として行動し、ソ連崩壊の後は世界唯一の覇権国として警察行動も取りました。
しかし、その役割が嫌になったようです。
東アジアやヨーロッパでもアメリカ軍の駐留費用を問題にしてそれが入れられなければ撤退もありえるとしています。
世界から警察官がいなくなったらどうなるか。
地域のボスがやりたいことをやるようになるのでしょう。
中国やロシアがその候補ですが、アラブ、アフリカなどにもそれが出現するかもしれません。
ロシアは世界戦略などはないようですが、旧ソ連の範囲内は言うことを聞かそうとしそうです。
トランプはすべてをディール(取引)で考えるそうです。
そこにはそれまでのビジネス経験が生かされるようですが、こういった駆け引きだらけのビジネスばかりをやってきたということなんでしょう。
核戦争すらディールの種にしてしまいそうです。
実はこの姿勢は北朝鮮の金正恩とそっくりだそうです。だから気が合うのかも。
池上さんが2年前に指摘した通りに進んでいるようです。この先も真っ暗なのかもしれません。
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