爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「変わる方言動く標準語」井上史雄著

前東京外語大教授の井上さんが方言について書かれたものですが、通常の方言関連本は方言地図といったような分布の調査や細かい使い方などが多いのに対し、この本は少し趣が違うものになっています。
まず、方言というものに対する態度の違いと言うものを江戸時代以前まで遡り、変化してくる様子を述べています。
京都が中心であった時代は方言というものは完全に蔑視されていたわけですが、地方では方言以外は通用しなかったという状況から、江戸に幕府ができるとそちらの言葉も勢力を増していき、さらに明治になると中央集権を進める過程で方言撲滅と言う状況にまで至ります。しかし、本当に根本から変わってきたのはラジオテレビにより標準化が始まって以来のことになります。しかし、逆に地方では方言復権と言う雰囲気も生まれると言う動きになっているところです。
外来語は昔の漢語からポルトガル語、明治以降のヨーロッパ語受け入れと進んできますが、実は中央でだけ取り入れてそれが方言に徐々に移行してくるというだけではなく、直接方言に入ったものもあるようです。これも盲点だったかもしれません。

この本で一番面白いのはそのあとの章に記されている、京都・東京を中心として鉄道の距離によって言葉の保存率が変わってくるというものです。昔は京都を中心として言葉が伝播していき、その後江戸・東京を中心とするようになっていきますが、その伝播は鉄道距離によって解析できると言う話です。確かにそんなものかもしれないなとも思う反面、方言というのはそれ以外の要素も大きいのではと思います。