子育てというものはその真っただ中にある人もそれを終えてしまった人も、迷うばかりでどうすれば本当に良いのかということが分からないままということが多いのでしょう。
そういった疑問に「科学」で答えようというのが本書です。
本書著者の和久田さんは特別支援学校の教諭を20年以上勤めたあと、大学院に戻り小児発達学を研究して博士号を取ったという方で、現場の経験を研究につなげたということです。
そういった観点から、子育て・教育というものについて10の面から見ていきます。
その中には、「勉強は子供の幸せになるか」「叱るというのは大人の負け」「誉めるにも技術がいる」「学校は社会の縮図ではない」「子供のやる気が問題というのは間違い」などなど、子育てに関わる人なら誰もが思い当たるようなことに、あくまでも科学的に答えていきます。
子供に「勉強しろ」と言わない、言わなかった親はいないでしょう。
しかしそれが単に学校の学科の学習というだけなら、それが子供の将来の幸福につながるとは言い切れないものがあります。
それをすることによりより「良い」学校に進学し、「良い」職業に就くことができたとしてもそれがその子の幸福かどうか、自信をもって断言できる人はいないでしょう。
しかしOECDが教育に関する国際的な研究をたくさん行っており、そこで子供の教育と将来の成功ということについての報告もしています。
それによれば、スキル「(認知・非認知)が重要であり、しかもそのうち非認知スキルを早い段階で育てることが必要だとしています。
ここで、認知スキルとは読んだり書いたり計算したりといういわゆる教科の学力につながるのに対し、非認知スキルとはそれ以外、コミュニケーションスキルや感情コントロールスキル、創造力、意欲的態度、誠実さ、協調性などを指しています。
認知スキルの方が「勉強しろ」の内容に近いものですが、それよりも非認知スキルを高めることが重要だということです。
そのためには「勉強しろ」というより自ら難題に当たるように思う気持ち、それを自己効力感というのですが、それを持たせるように仕向けることです。
その全く逆が「この教科を何時間勉強しろ」というような指示をすることで、これでは自己効力感を奪うばかりです。
子どもの悪いと思われる行動を叱ることはあまり効果はありません。
叱ることでその行動を止めたとしてもそれは叱られることが嫌でそれに対応しただけで自分で考えてのことではありません。
しかし逆に良い行動を褒めればよいのかというとそう簡単なことではありません。
「ほめる」にも技術が必要で、即時性、明示性、具体性、多様性といったことを意識して行わなければ効果が薄れていきます。
子どもが親などに求める中で最も強いのが「注目してもらう」ことです。
中には注目してもらいたいばかりに悪い行動をすることすらあります。
それならば「適切な行動」をしたときに注目してやればよいのか。
そうならないことが多いようで、いつもゲームばかりしている子がたまたますぐに宿題をやっていると、「邪魔しないようにやらせておく」親が多いようです。
それでは「適切な行為」をしたのに何の反応もなかったということになりかねません。
ただし、「宿題やってて偉いね」と口に出して褒めるのもわざとらしく、その態度の示し方にも工夫がいるようです。
成功の秘訣として、行動に抑制を持たせる「抑制脳」の働きが必要であり、それの強い子供ほど社会的に重要な地位に上がることが多いようです。
有名な心理テストでマシュマロテストというものがあり、子どもに「ここのお菓子を置いておくけど、私が少し部屋を出ていくがその間このお菓子を食べずに我慢していたらお菓子を2個あげる」といって、我慢できるかどうかを見ると小さな子ほど我慢できずに食べてしまうのですが、同じ年齢でも我慢できる子とできない子が居て、将来の学業成績に相当な差ができるようです。
その「我慢できる」というのが抑制脳の働きが強いということで、学力でもスポーツでも高めるためには自己のコントロールが重要であり、その能力が必須です。
その働きを実行機能(Executive Function)と言います。
一般的に言われる「賢い人」というのがその機能が優れた人だと言えます。
人の性格や能力のバラエティの一つとして「感覚」の鋭さというものがあります。
それは個人によって違いが大きいとともに年齢と共に変化する場合もあります。
子どもの頃は苦いだけだった抹茶なども大人になると美味しく思えることなどもそれにあたります。
そういった感覚の鋭さというものは、鋭いから優れているとか鈍いからだめなどと言うことは全くなく、各人の個性としか言えないものです。
たとえば前庭感覚というものがあり、これが敏感な人は乗り物酔いしやすく、逆に鈍感な人はジェットコースターやトランポリンが好きという風に現れるかもしれません。
そういった方が体操競技にも向いているようですが、敏感過ぎる人はそれに耐えられません。
感覚が鈍感な人は強い刺激を好み、敏感な人はそれに耐えられないということもあります。
刺激的な味の食べ物が好きか嫌いかというのもそういった感覚の敏感さが影響しているかもしれません。
行動が激しく乱暴なように感じる子供というのは実は感覚が鈍く刺激を欲するところからきているのかもしれません。
刺激が強すぎる現代社会に向いているとも言えそうです。
なかなか興味深く、示唆に富む話が多く出てきました。
考えて見れば私の子育ても間違いだらけだったように思います。
よく無事に育ってくれたものと感謝ばかりです。