近代世界を引っ張ってきたのはヨーロッパとアメリカです。
それは自由民主主義、資本主義、世俗ナショナリズムを共通に備えていました。
彼らは自国を先進国と捉え、他の国は途上国としてその状態に徐々にでも上昇し、やがてはすべての国が西洋モデルの国として追いつき、全世界がその状態になるという予測をしていました。
しかし、途上国と言われてきた国々は、西洋モデルとは別の仕組みを持ったまま変えようともせずに独自の方策で力を付けてきています。
そうこうしている間に、肝心の西洋モデルの最先端であったはずの先進国が、どこも不調となりかつての光を失っています。
これは、西洋モデル自体が普遍的な到達点と考えることができなかったという事実を示しているのではないか。
それを認めた上で現在の世界を見ていくと、現状が理解しやすい上にこの後どのような方向に向かっていくかも想像しやすいようです。
この200年は、ヨーロッパとアメリカという西洋モデルの国々が圧倒的に世界を支配してきました。
しかし、それはもともと西洋モデルというものが着々と勢力を広げて到達したものではありません。
逆に、その少し前まではアジアやイスラム世界の国々に圧倒されていたとも言えるものでした。
その時代には、強力な帝国運営を成し遂げたイスラム世界や中国の文明に比べ、ヨーロッパ世界は王権の確立にも失敗し、弱体化した王のもとに豪族たちが勝手気ままな分立をしているというものでした。
しかし、それが逆に商人などの勃興を許し、彼らが新たな国の基礎をなることで、近代社会が成立しました。
帝国の力が強すぎたイスラムや中国ではこのようなブルジョワジーの発展は見られず、近代はやってきませんでした。
21世紀がスタートした時には、このような西洋の大勝利を特にアメリカが自らのものとし、満足感に浸っていました。
しかし、その後のテロ攻撃、長引く戦争、金融危機など、多くの問題を抱えてしまいます。
ヨーロッパの各国も経済成長の鈍化や政治対立など混乱が増すばかりです。
もはや、「西洋の勝利」など信じられるものではなくなりました。
「次にくる大転換」は中国をはじめとする「非西洋」の勃興であろうとしています。
これらの非西洋の新興国は西洋モデルとは異なるモデルで現在も発展を続けています。
実は、中産階級の勃興で国全体が発展するという西洋モデルは、極めて限られた条件でしか有効ではなかったと主張しています。
そのモデルとは、
独裁
共同体主義独裁制 中国 個人の機会・自由よりも安定と経済成長を優先する
家父長主義独裁制 ロシア 政治的に服従すれば国家が面倒を見てくれる
部族独裁制 中東諸王国 血統と有力一族に仕事と財産を分与する。
中国型の共同主義独裁制には明白な強みがあります。
その最たるものは、面倒な民主的プロセスに邪魔されずに指導者が政策決定できること。
もちろんそれは弱点、あるいは汚点となり、市民自由の欠如、人権侵害、異論の抑圧が必ず起こります。
中東には部族独裁制の諸王国の他にも、神政政治を行うイランのような国もあり、これも一つの形となっています。
イスラエルも一見西欧型の民主主義国のように見えますが、実は正統派ユダヤ教徒は極めて強力な宗教感覚を持っており、それが大きな勢力を形作っています。
アフリカの諸国は、独裁制でもワンマン政治という形が特徴的です。それはこれまでのところ成功してはいないようです。
中南米諸国は新興国として発展の可能性がありますが、この近代モデルも独自のものです。
それは、「ポピュリズム」という言葉で表されます。
すでに人口の大半が都市部に住み、貧困層を形成しています。彼らの歓心を捉えることが必要条件となっています。
このような状況下でも、まだアメリカを中心に先進国は世界に自由民主主義を広めることが自らの使命だと考えている人が多くいます。
アラブの春という、象徴的な事件の際にもオバマ大統領は自由と民主化を広めることがアメリカであると演説しました。
ヨーロッパも基本的にはこの観念を共有しています。
しかし、この著者はこういった思い込みは新興国との軋轢を増すばかりであり有害だと断じ、非西洋モデルの各国に合わせた対応を取るべきだとしています。
中国など、明らかに内部で民主活動家を弾圧していても、あれはそういう国なんだと納得しろということでしょうか。やはりかなり抵抗を感じる論調でした。
ポスト西洋世界はどこに向かうのか: 「多様な近代」への大転換
- 作者: Charles A. Kupchan,チャールズカプチャン,坪内淳,小松志朗
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2016/05/21
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る