昨年から世界中に広がった新型コロナウイルス感染は、国家や経済と言ったものに大きな影響を与え続けています。
そういった問題について、ブルガリア出身でオーストリアでも活躍している政治学者のクラステフさんが2020年4月末には書いたという本です。
したがって、まだワクチン接種は始まらずヨーロッパなどでも多数の死者が続出していた時期ですが、その後急速に感染制圧ができたというわけでもありませんので、書かれている内容も古びてはいないでしょう。
その原書を翻訳し7月には日本版が出版されました。
なお、日本語訳版には原著の他に特別寄稿として、宇野重規、細谷雄一、三浦瑠璃の3人が書いた文章が巻末に添付されています。
内容はほとんどヨーロッパに関することです。
したがって、アメリカは共通する部分もあるでしょうが、中国やアジア、その他の第三世界の状況は触れられていません。
執筆時点ではヨーロッパのほとんどの国でロックダウンが実施されていました。
その影響も厳しいもので、それが経済を止めるだけでなく、民主主義にとっても大きなものだということです。
ヨーロッパでは寸前まで難民危機と言われる状態でした。
2015年頃から劇化した難民流入が各国を揺さぶっていました。
各国にとって観光客というものは歓迎すべき存在ですが、難民は拒みたいものです。
しかしパンデミックで観光客はいなくなりました。
国境を封鎖しているので難民も止めてはいますがその圧力は厳しくやがてより多くの難民が流入してくるでしょう。
人々は家から出ることができなくなりました。
そのため、民主主義の根幹である人との交わりを維持することが難しくなっています。
さらに、強権的にステイホームを実施するということは権威主義的な政府の出現につながるのではと危惧されます。
今は群衆というものが消えた状態になっています。
それがどちらに向かうのか、著者はそれほど危機感は抱いていないようです。
中国がウイルスの起源であり、最初に感染拡大したものの、それを強権で抑え込むことに成功したために中国が国際的に勢力を伸ばすのではないかとも思われていました。
しかしその後の中国のふるまいを見てそれに警戒感を皆抱くようになってしまいました。
パンデミック前には医薬品やマスクなどを中国がほとんど生産していることについてほとんど疑問も持っていなかった国々も、それを自国で生産する必要があるのではと考えるようになりました。
これはグローバリゼーションの部分的な見直しになるのかもしれません。
本書の中では結論的なものも出せないのは当然ですが、それを考えていく助けにはなりそうです。