爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ウクライナ危機後の世界」大野和基編

ウクライナ戦争がどうなるのか、まだまだ分かりませんが、この本はロシアのウクライナ侵攻後にウクライナが押し返した頃、2022年3月~4月に国際ジャーナリストの大野さんが世界を代表すると言われる知性の持ち主?7名にインタビューしまとめたというものです。

その7名とは、ユヴァル・ノア・ハラリ、ジャック・アタリポール・クルーグマンジョセフ・ナイ、ティモシー・スナイダー、ラリー・ダイアモンド、エリオット・ヒギンズです。

 

いずれもかなり高名な人ばかりですが、そのウクライナ戦争観はどうやらそれほど独自でも深くもない場合が多いようで、「ロシアの権威主義対民主主義の戦い」といった観念が基調となっているようです。

そして、「ウクライナの敗戦で終わると民主主義の危機となる」という見方もほぼ同様。

今現在の戦況を見て皆さんはどう思っているのでしょうか。

続編が見たい気もします。がそんな本は買う人もいないでしょう。

 

ラリー・ダイアモンドさんの章も権威主義対民主主義という枠組みで語られていますが、そこにあるデータは確かでしょう。

2019年に世界の人口の52%は非民主主義国に住んでいるとしています。

これはソ連解体以降で最高の数字でした。

1990年代には専制国家の43%が民主主義へ移行したのですが、2000年代にはそれが20%に減少し、2010年代には17.3%となったということです。

ウクライナ侵攻はその動きの直接的な行使であり、この戦争がロシアの決定的な敗戦となれば民主主義国にとって大きな勝利となるだろうとしていますが。

ロシアが勝利した場合は世界秩序にとって悲惨な出来事となると結んでいます。

どうやらそうなりそうですが。

 

ジョセフ・ナイさんもNATO拡大がこの戦争を引き起こした要因の一つであるということは認めています。

しかし主因とは言えない、それはNATO加盟には何十年もかかるだろうからだとしています。

したがって、今回の戦争のことでアメリカを責めるのは見当違いだということです。

何と寛大な態度。

 

最終章のエリオット・ヒギンズさんはちょっと毛色の変わった人でした。

彼は「オープンソース」の情報に基づいて様々な世界情勢を解き明かす、「ベリング・キャット」という活動をしています。

インターネットやソーシャルメディア上の公開情報のみを活用し、これまでにも2014年のマレーシア航空機撃墜事件、2018年イギリスで起きた元ロシアスパイのスクリバリ父娘毒殺未遂事件などの真相を究明してきたということです。

現在はロシアのウクライナ侵攻に関しての調査を進めているということです。

他の大家たちの放言よりヒギンズさんの活動が一番ためになりそうです。