ロシアのウクライナ侵攻で始まったウクライナ戦争はすでに2年を経過しました。
戦線は膠着状態となり決着する様子は見えません。
この本はウクライナ侵攻からちょうど1年が経過した2023年2月の出版であり、この戦争を終わらせるための方策も進められていた時期です。
著者の東さんはNHK勤務のあと大学や国連で国際政治に関わってきた方です。
このウクライナ戦争が今後どうなっていくか、予測される5つのシナリオから書き進められます。
それは、世界大戦に至る破滅的な展開、”汚い”妥協、プーチン体制の崩壊、西側諸国とロシア・中国経済圏の分離、中国やトルコの働きかけでロシア軍が停戦・撤収といったものです。
そして、第二次大戦後に起きた戦争がどのように終わったかという実例を示します。
そこでは完全な軍事的勝利というもので終わった例がほとんどないことが分かります。
ベトナム戦争、ソ連のアフガン侵攻、アメリカのアフガン侵攻等々、多くは大国の侵攻なのですが、大国側が決着をつけられないまま撤退という例です。
このウクライナ戦争でも多くの和平調停、仲介の動きが見られています。
トルコなどが仲介の動きを強め、特に初期には奏功する可能性もあったのですが、ブチャなどでのロシア軍の残虐行為の発覚でそれもつぶれてしまいました。
欧米日は開戦初期から強い経済制裁をロシアに課すという姿勢を見せていますが、どうも効果が見えるとは言えないようです。
これまでも多くの経済制裁実施例があり、米国はベラルーシ、キューバ、ロシア、シリア、ジンバブエ、イラン、北朝鮮、ベネズエラに制裁を加えています。
しかし経済的な打撃は与えたとしても目指す目標は全く達成していません。
経済制裁には限界がありますが、それ以上に問題なのが経済制裁の解除の条件が決まっていないことです。
それを明示すれば戦争自体を終わらせる糸口にもなるかもしれません。
この戦争を終わらせるための条件には多くの難問があります。
領土問題、戦争犯罪、安全保障の枠組みなど、双方が譲れないものが多数山積です。
国際刑事裁判所(ICC)がプーチンの犯罪を認めましたが、「和平を受け入れたら戦争犯罪で起訴されると分かっていて停戦に応じる指導者はいない」というのが当たり前の感覚でしょう。
最後に日本にできることという項目が設けられています。
ウクライナについては難民支援や非軍事支援ですが、ウクライナ難民が逃れている周辺各国への支援も重要であり、モルドバなどはヨーロッパ最貧国でありながら多くの難民を受け入れており、その支援は日本としても重要です。
国際社会でのグローバルな脅威が増大していますが、それに対して日本ができることをやっていく姿勢も必要でしょう。
なお、主題とは関係ありませんが、「クリーン・エネルギー大国となって国際貢献を」という記述があり、そこでは政治学者が陥りやすい再エネ妄信が見られました。
「洋上風力発電はこの10年でコストが劇的に下がり、1kWあたり6円と火力発電の12円より大幅に安くなっている」とか、「太陽光発電は2030年には1kW8.2円から11.8円とLNG火力発電の10.7円から14.3円より安くなる」といったあり得ない数字を信じているようです。
もしもそれが本当ならすでにFITなんていうバカバカしいものは無くなっているはずですが、そうではないことが分からないのでしょう。
まあ、そういった点はありますが、ウクライナの戦争を終結させるということは考えるべきなんでしょう。