内田樹さんのブログ「研究室」から、最近本の解説を書いたそうで、島田雅彦さんの「パンとサーカス」というものです。
blog.tatsuru.comこの小説は、日本がアメリカの属国であるという状況を正面からとらえ、そこから抜け出すために革命を起こすという状況を描いています。
アメリカの属国化というこのテーマは社会学者や歴史家などが取り上げることはあっても小説となることはこれまでしばらく無かったということで、斬新な内容と言えます。
実は同じテーマ(日本はアメリカの属国で、それを抜け出すために革命を起こす)というのは1986年の村上龍の「愛と幻想のファシズム」でも扱われました。
しかしその後約40年まったく続くものが無かったようです。
この小説は著者の島田さんが現状に深い怒りと改革の希望を持って書いていると見ています。
そして是正のための改革(革命)も実現したいとの望みがあるとも。
内田さんは本書を読んで読者たちが本当に想像力を駆使して「劇的に変化した日本」を見てもらいたいと強調しています。
登場人物の一人の言葉として次のような現状解析がつづられます。
「日本が集団的自衛権を行使できるようにしたからといって、アメリカは何もする気はなく、リゾート気分で日本に駐留し、その費用を日本に負担させ、さらに増額を要求するだけでしょう。(...)有事の際は日本を守ると曖昧にリップサービスをするだけで、アメリカは何一つ具体的な戦略を示してこなかった。空母も出動させ、戦闘機を飛ばしてくれるんですか?日本が爆買いしたF35を出撃させてくれるんですか?米軍がゴーサインを出さないと、高価な戦闘機も宝の持ち腐れになるだけです。もしかすると、ポンコツであることがバレるから、出撃命令は永遠に下されないかもしれない。そもそもの大前提として、アメリカは決して中国との戦争には踏み切らない。アジア太平洋地域における軍事的影響力が一気に低下し、ハワイまで奪われかねず。その損失は計り知れないからです。」(223-224頁)
この見解に対して内田さんも完全同意とのことです。
それには私も同じです。
ウクライナを見れば金と兵器は出しても本気で戦うつもりなどアメリカには無いことが明らかです。
それが日本であればどうなのか。
やはり同様と見るのが当然でしょう。
それに続く情勢解析は内田さんの深い洞察によります。
台湾に中国が侵攻してもアメリカは本気で参戦することはないでしょうが、その次は韓国、日本であると皆が考えるようになる。
そのためにアメリカが対応することはなく、主力を日本・韓国からグアムに後退させ、アメリカ軍主力を無傷で置いておくことが必要という言い訳をする。
そうして時を稼ぐのがアメリカの戦法となるということです。
こういったことは現実分析ではなく勝手な想像、妄想なのかもしれません。
しかしそういった想像力を働かせて様々な可能性を考えていくということは必要なことでしょう。
最後にこう結んでいます。
「起きてもよかったのに起きなかったこと」について想像することと、「起きるはずがないと今思われていることはどんな条件が整えば起きるか」を想像すること、これは歴史学ではなく、文学の仕事です。歴史家は「起きたことはなぜ起きたのか」を確定するのが本務ですから、「起きてもよかったことが起きなかった理由」について考える暇なんかありません。この仕事は文学が引き受けるしかない。
文学の存在価値というものを見事に言い表していると感じます。
なかなか深い内容の本のようです。
図書館に入ったら読んでみようか。