内田樹さんが発表されている「研究室」、いつも目をみはる観点からの記事で驚かされますが、今回の「China Scare」は一段と興味深い内容でした。
「scare」とは「恐怖・怯え」といった意味の英単語です。
つまり、「China Scare」とは、中国の恐怖と言った意味になります。
これを内田さんは、「嫌中」記事がこのところほとんど見られなくなったところから見出します。
少し前までは「嫌韓」と並んで「嫌中」記事が多くのメディアで掲載されていました。
しかし、現在は「嫌韓」記事は同様に多数が踊っていますが、「嫌中」記事はほとんど見られなくなっています。
この理由を誰も教えてくれないので自分で書いてしまおうというのがこの記事です。
内田さんはアメリカのForeign Affairs Reportに毎月目を通しています。
そこで見られる特徴はこの1年ほどの間にアメリカの外交専門家たちの間に「China Scare」(中国恐怖)が広がっているということです。
このようなScareで有名なのは「Red Scare」、つまり赤の恐怖で、1950年代のマッカーシズムは有名ですが、それ以前の1910年代、ロシアで共産革命が起きた当時にもアメリカ社会全体に広まったそうです。
実際はアメリカ国内の共産主義運動というものは大したものでは無かったのですが、人々の持った恐怖は大きなものでした。
このようなScareはその後、ソ連、イスラムと相手を換えながら続いていたのですが、今はその相手が中国になっています。
そして、その理由も決して的外れなものではなく、実際の脅威が隠れています。
それは、「中国のAI技術の進歩」だそうです。
これは、産業分野での中国の圧倒という恐れもさることながら、一番大きなのは「軍事分野での立後れ」です。
現在の兵器は多かれ少なかれAI技術が入り込んでおり、特にミサイルや戦闘機などはその塊のようなものです。
そこの技術が負けてしまうと、いくら形ばかりは最新兵器を揃えているように見えても、いざ開戦ということになって一つも発射できないということもあり得ます。
本当に米中の技術力がそこまで差が開いているとは言えないでしょうが、誇張されている可能性はあるもののそうなる危険性が無いわけではありません。
このような、恐怖がアメリカの内部に広がり、それが日本にも浸透してきて「嫌中記事」も書かれなくなったというのが内田さんの観察です。
さて、実は内田さんが恐れているのはその事自体ではありません。
世界中でそのような中国の成功を見てそれを真似ようとする国が増えてくることです。
民主政体などはうるさいばかりで動きが取れない。
それよりは中国のような強権政治の方が成功するという意識があちこちに広まっています。
人間は直近の成功事例を模倣する。
他の経済分野などでもそういった例はどこにでも見られます。
政治の分野でも同様で、中国の成功例?に続こうという国が続出しそうです。
さらに、内田さんの観察で面白いのは、その中国モデルと完全に反する事例がもう一つの「韓国モデル」だということです。
韓国の現状を揶揄し貶めるのが日本メディアの風潮ですが、実際は「民主化路線」の成功例だということです。
さて、ごく間近の国にそのような2タイプの成功例が出てしまいました。
強権化モデルと、民主化モデルです。
日本の安倍政権はもちろん、中国の強権化モデルにあこがれています。
そのため、冒頭の観察の「嫌中記事が減り、嫌韓記事は増えた」という現象が起きていると言うことです。
非常に面白い観察であり、おそらくその通りであろうと思わせるものでした。