古典とは文学研究では近世以前の作品を指します。
しかし現代から見るとすでに明治期の夏目漱石や森鴎外も古典と感じられるようです。
それでも著者の斎藤さんから見ると1960年代以降でもこの後古典と評価されるようなものもあるのではないかと感じられるそうです。
そこで、その時期以降の作品を「中古典」と名付け、それが本当に後の世まで古典として遇されていくかどうか、考えて見たということです。
それを紀伊國屋書店の広報誌、scriptaに「中古典のすすめ」として連載したのですが、それにさらに加筆して単行本としたのが本書です。
なお、1960年代以降の作品といっても小説に限らず、梅棹忠夫「文明の生態史観」、中根千枝「タテ社会の人間関係」、ヴォーゲル「ジャパンアズナンバーワン」、浅田彰「構造と力」などという本も取り上げています。
紹介文の最後には斎藤さんの評価する「名作度」と「使える度」が星三つで示されています。
森村桂「天国にいちばん近い島」は1966年の出版。
まだまだ庶民の海外旅行などは難しかった当時(なにしろ海外旅行が自由化されたのも1964年)、それも若い娘の単独海外旅行ということで目新しいものでした。
ただし、この本はそれ以降新刊での供給はできなくなっています。
なにしろ副題が「地球の先っぽにある土人島での物語」すでに今は完全NGワードです。
言葉だけ代えればよいかと言えば、中身も相当に差別的なものを含んでいるようで、それだけ日本人の意識も向上したということでしょうか。
斎藤さん評価は名作度は甘く星二つですが、使える度は星一つ(無理して読む必要なし)
鎌田さんが実際にトヨタの工場に季節工として5か月間勤務しその様子を描いたものでした。
小林多喜二の「蟹工船」が再び話題になっていますが、多喜二は蟹工船の作業を実際に見たこともなく描いていますが、鎌田さんは間違いなく季節工としての作業に従事した体験を基に書いています。
その労働環境は劣悪、工場内での身分差別などもひどいものでした。
なお、この勤務体験をあくまでもルポ作成のための手段として行ったということで、その点についての批判をする人もいました。
それで大宅壮一ノンフィクション賞の選考でも「取材方法がフェアでない」などとケチをつける人がいて受賞がなりませんでしたが、今となってはそれも鎌田さんの武勇伝と見なされます。
なお、このような工場の状況告発にも関わらず、その後の労働環境はさらにひどくなる一方のようです。
そんなわけで、斎藤さんの評価は名作度、使える度ともに星三つ。
こんな本もあったのですね。
「日本の先端技術が米ソを変えた」などと言う世迷言が書かれています。
今は昔。
もはや何の参考にもならず、名作度・使える度ともに星一つの最低。
実はもっと面白い内容の本もあり、田中康夫、渡辺淳一、伊藤比呂美、村上春樹などの作品の評はかなりのものですが、長くなるので泣く泣く割愛。