爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ルポルタージュ 無関心の報酬」鎌田慧著

ルポライターの鎌田さんは潜入ルポといった手法で社会の闇を突き、多くの読者に衝撃を与えてきました。

この本は1988年の出版でその頃の社会の矛盾の拡大をテーマにしてあちこちに発表した文章をまとめたものです。

当時は不景気などで会社経営が厳しくなったり様々な要因で労働者の待遇が悪化していきました。

その影響かもしれない事故も頻発していました。

しかしそういった労働環境の劣化ということに対し、多くの国民はもはや自分のこととしてとらえることもせず、無関心ともいえる態度を取り続けてしまいました。

それが自らの立場の悪化にもつながるのだというのが、本書の題名に表れているのだと思います。

 

取り上げられているのは、

国鉄の分割民営化とそれで切り捨てられた国労組合員

北海道の炭鉱閉鎖とその犠牲者

日本航空の管理体制の劣化と事故

教育現場の管理強化

希望退職と称する人員削減

といったものです。

 

30年以上も前の社会の実相ですが、見事にその後の社会情勢につながっていることが分かります。

ここで書かれていることは決して昔の出来事ではなく、今の人々の苦しみの原点がここにあったとも言えるようなものだとわかります。

 

ただし、これらの事象もその時に始まったものとはいえず、さらに以前から続けられてきたものだということです。

 

現在であれば非正規雇用労働者の問題として見られているものが、当時はそれ以前から継続していた問題として存在していました。

大企業の工場でも「本工」と言われる正社員以外に、臨時工やパートタイマー、季節労働者といった人々が働いており、彼らが真っ先に首切りにあいました。

それを黙ってみていた本工たちもその後は「希望退職」と言われる人員整理にさらされることとなります。

彼らが無関心であったとはいえないでしょうが、何もできなかったわけではないでしょう。

 

今になって急激に悪化してきたかのような社会ですが、決してそんなものではなく徐々に人々の無関心を利用して変わっていったということが分かります。

自分自身もその時は30代、やはり自分の仕事だけに気を取られ他人の境遇には無関心であったと思います。

それが今の社会を作ってしまったということなのでしょう。