著者の杉江さんは、日航で長年機長として乗務し、その後は航空事故の検証や運行安全の提言などの活動をしています。
エアラインのランキングと称する情報がネット上などあちこちに溢れているようですが、機内食やスタッフの接客態度などは参考になるでしょうけれど、安全面のランキングは実態とかけ離れたものでしかないようです。
そういったところでは、事故件数や整備状況、使用機材の経年数などを数値化したデータでランク付けをしていますが、これでは長い経験を持ち近年は事故を発生させていない航空会社がランキング下位に沈み、新品の機材で最近運行を始めたばかりのLCCが上位に来てしまうことも起きています。
しかし、航空安全をライフワークとしてきた著者に言わせれば、もっとも重要なのは「近年どのような事故や事件を起こしているか」が最重要事項であり、そこからパイロットの技量や経営者の姿勢も見えてくるということです。
近年、航空事故・事件は急増しています。
少しでも安全な会社を選ぶことが、まさに命がけの作業となっています。
機内食で選ぶのもあってもいいが、まさに生命あっての物種ということです。
最近のパイロット不足はひどい状況であり、世界的に大きな問題となっています。
その対策として、軍隊から民間へ移籍するパイロットが急増しています。
軍隊での飛行時間と民間でのそれを積算して「飛行時間1万時間のベテラン」などと言われますが、軍隊では場合によってはイチかバチかといった飛行もあり得るのに対し、民間の運行では「たとえ1万回無事に着陸しても1回の失敗も許されない」という考え方が必要であり、軍出身のパイロットはそのへんの姿勢が不十分な場合があります。
これは、特に軍での経験が長過ぎるベテランの方がその傾向が強く、若いうちに民間に移籍した方がマシということもあるようです。
軍出身のパイロットの特性として、自動操縦システムに対する過度の依存ということがあります。
軍隊ではそのようなシステムは使わないため、民間に移ってきてあまりにも自動化が素晴らしく見え、もう何でも自動化に任せておけば大丈夫といった感覚になってしまうようです。
また、軍隊の通例として上官の命令は絶対ということがあるために、民間に移ってきてもその感覚のままということがあり、操縦士であれば副操縦士の言うことは聞かず、逆に副操縦士として乗務する場合に問題があっても操縦士には何も言えないということがあります。
また、最近の規制緩和の波に乗り、乗員養成制度も極めて簡略化されてしまいました。
MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)と呼ばれるものもその一つで、これまでは小型機から始めて操縦士免許を取った後に実用機での訓練をやっていたものを、僅かな初期訓練のあとにはシミュレータで副操縦士限定のライセンスを取らせ、そのまま乗務につかせるという制度もできました。
これでは、十分な危機対応の訓練はできません。
こういったパイロットの技量不足が、ハイテク機での事故につながっています。
1994年に中華航空機が名古屋空港に着陸しようとして操作をミスし、自動操縦システムが解除できずに異常な状態となって墜落したのも、日本人の犠牲者も出ただけに記憶に残るところです。
自動化・ハイテク化というところは、乗員の数を減らしコスト削減に結びつけるということとも関連します。
これは、最近の飛行機がどれもエンジン2基のものになっているということとも同じ理由から来ています。
アメリカの大統領専用機エアフォース・ワンはいまだにボーイング747を使っています。
エンジンが4発の飛行機なら1基が止まっても長距離を飛んで目的地に向かうことができますが、双発機のエンジン1基が止まれば近くの空港に降りなければいけません。
日本は政府専用機をこれまでの747から双発機の777に代えてしまいました。
危機管理が本当に考えられているのでしょうか。
航空機事故の起きやすい地域・国というものは確実に存在します。
ここ数年の事故・事件の傾向を見ても、ほとんどがアジアの航空会社に集中しています。
その原因を見ていくと、不可抗力と言えるものはほとんどなく、パイロットの判断力と技量の低さによるといえるものが多いようです。
パイロットの責任にするだけではいけないのですが、それにしても基本的な操作ミスが目立つようです。
これには次の要因があります。
1,安全文化が成熟していないこと。これはタイやインドネシアなど行政当局すら国際的に批判の対象となっているように、航空会社も国も責任があります。
2,パイロットの訓練不足。
3,伝統的に軍隊出身のパイロットが多いこと。
事故が多いアジアの中でもパイロットの基本的操作ミスによるものが多いのが韓国の航空会社です。
アシアナ航空、大韓航空といった大きな航空会社でもそういった事故が頻発しています。
「韓国特有の安全意識の欠如」というものが見えてきます。
また、それとともに労使対決の激しさが安全にも及んでいます。
他にもマレーシア、インドネシアといった国は安全度が低いと判断できます。
インドネシアはそのすべての航空機がEU圏への乗り入れ禁止措置を取られるということもありました。(今は一部は就航可能)
(なお、EUの措置については異議もあります)
中国も近年急激に航空路線が拡大し、航空会社も激増していますが、パイロットの不足が激しく世界中からかき集めています。
中国の「安全文化」の問題点は様々な面で表れてきますが、航空会社でも同様です。
ヨーロッパの航空会社はアジアよりはかなり良いようですが、それでもアメリカの航空会社ほどの安全度はなく、せいぜい日本と同程度のようです。
中でもイタリア、スペイン、など南欧系では国民性からか緩みがみられるようです。
オーストラリアでもカンタス航空は創業以来死亡事故は起きていないのですが、不安材料もあるようです。
著者が搭乗した際の操縦では、不用意に積乱雲に突っ込むということも頻繁に見られ、操縦士の注意力が散漫な印象を受けたようです。
日本の航空会社では、死亡事故の発生は近年は見られませんが、その一歩手前とでも言うべき重大インシデントは頻発しており、いつ死亡事故が発生してもおかしくない状況です。
この影にはJALの経営難からくるパイロットの労働条件低下からの離職、そのための人員不足、簡易的な乗員養成システムなど、操縦の技術低下が存在すること、コストのための整備不足も表れ始めているようです。
テロの脅威が言われますが、やはり世界で一番安全なのはアメリカの航空会社だそうです。
大きな機体破壊などが起きても、操縦士の奇跡的な能力が発揮され無事に帰還する「奇跡のフライト」と呼ばれるものは、ほとんどがアメリカで起きています。
マニュアルには書ききれないほどの異常事態にあっても、アメリカのベテランパイロットの対応能力でなんとか生還を果たすという事例が多々見られます。
この陰には、自家用機も多数飛ぶという飛行経験を多く積むことができるアメリカの事情が反映しているようです。
「本当のエアラインランキング」(安全度のみ)を巻末に載せられています。
一位はユナイテッド航空、以下デルタ、キャセイパシフィック、アメリカン、スカンジナビア、ニュージーランド、フィンエアーと続いていきます。
ワーストの方も続いて掲載されています。
アシアナ、トランスアジア、大韓航空、トルコ、マレーシア、エジプト、ガルーダ、チャイナエア、エールフランス、フィリピンと、ほとんどがアジアの航空会社でした。
私はおそらくもう海外へ旅行する機会はないでしょうが、国内では結構飛行機を使うことは多いので気になります。
まあ、もうそれほど先が長いわけではないですが。