爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「これから始まる『新しい世界経済』の教科書」ジョセフ・E・スティグリッツ著

アメリカのノーベル賞受賞経済学者、スティグリッツはグローバル金融資本への富の集中で格差が拡大していることを糾弾しています。

しかし、一方では安倍政権当初のアベノミクスを称賛してもいたので、これ以上読む価値もないと一度は見放しました。

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しかし、2016年出版の本書では富裕層への富の集中に歯止めをかけ、中間層の拡充を図る策が示されているということで、久しぶりに読んでみました。

その策は、まあ具体化するには非常に困難が強いでしょうが、もしも実行することができれば有効かもしれません。

 

アメリカが世界に先駆けて実現してきたのは、「最富裕層への富の集中」でした。

それは、徐々に進めてきた規制緩和という美名に実態を隠された方策により可能となりました。

このような誤った政策を変えていくことが格差拡大の解決策です。

 

ただし、今日のような経済ルールは簡単に作られたわけではなく数十年かけて周到に組み上げられてきたものですから、それを変えるにもかなり長い時間と努力が必要となります。

しかし、それを成し遂げなければ世界は混乱に陥るでしょう。

 

このような経済ルールがどのようにして作られてきたかということを本書前半では説明されていますが、それは他書にもあるところなので解説は略します。

それでは、どうすればよいのか。

 

金融セクターのやりたい放題となった現状に歯止めをかけ、彼らの本当の社会的使命(産業界への投資)を果たさせることを促す。

株式会社の短期主義の蔓延を防ぐ。

労働者の権利を守り、とりわけ女性、非白人、移民が労働市場に参加する際の障壁を減らす。

質がよく支払い可能な負担で可能な、学校教育、医療、保育、金融サービス、退職保障を提供する。

 

これらを実現するための具体策は多岐にわたり、困難なものも多いのですが、それを一つ一つ片付けていかなければなりません。

 

金融セクターの改革はもっとも求められているのですが、もっとも困難なことかもしれません。

現代のテクノロジーから見れば途方も無い高額な手数料を取る体制がそのままです。

さらに金融セクターのもっとも重要な任務である、価値ある産業に資本を提供するという仕事に立ち返らせ、今のようなバブルを引き起こすマネーゲームでボロ儲けを狙うようなことからは手を引かせなければなりません。

これには、妥当な規制と税制の改革が必要です。

 

公平な税制というものが何より必要となります。

ウォーレン・バフェットは自分の収入にかかる税の税率が、彼の秘書の収入にかかる税率より低いことに気がついたそうです。

高収入のものからはそれなりの税金を取らなければなりません。

キャピタルゲインにかかる税率を減らすことは、投資を刺激すると唱える擁護者の言い分は完全な嘘であることはその後の経緯で証明されました。

 

企業の海外での収入にも適正な課税をする体制を作らなければグローバル企業には対応できません。

ここで世界各国が足並みを揃え協力しなければグローバル企業の収益はどこかのタックスヘイブンに隠されてしまうでしょう。

 

アメリカではいまだに人種差別、そして意外かもしれませんが女性差別が大きな問題です。

彼らも含めすべての労働者を中間層として育成しない限り、多くの問題は解決しません。

労働組合の復活を実現させ、各種の方策つまり最低賃金引き上げ、有給病気休暇、育児介護休暇などの充実、保育、教育、医療などを再生しなければなりません。

 

民主主義を復活させ、平等と繁栄を両立させる社会を実現しなければなりません。

 

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

これから始まる「新しい世界経済」の教科書: スティグリッツ教授の

 

 紹介は略しましたが、前半の「なぜこんな社会になったのか」という部分に見られる、金融セクターなどの我田引水ロビー活動の悪辣さというものは激しいものでした。

それに打ち勝つためには、政権を動かして民主的政策を実現しなければなりませんが、それができる政権を樹立できるのでしょうか。

トランプに騙される程度の国民では無理でしょう。