爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界の食卓から社会が見える」岡根谷実里著

世界の台所探検家と自称する岡根谷さんが、いろいろな伝手をたどって世界各国に出かけて家庭料理を食べさせてもらってその体験を書いているのですが、単なる料理紹介だけに止まらず社会の問題点などについても指摘されています。

そういった傾向は各章の章題からも見えており、「食と政治」「食と宗教」「食と地球環境」等々、なかなか硬派かと見えます。

 

アフリカのスーダンでは伝統食である練り粥、アスィダというものが食べられています。

アフリカ各国で同様のものが食べられるのですが、スーダンではソルガム(別名こうりゃん)を原料として作られ、毎日鍋いっぱいのアスィダを練っています。

しかしアメリカからの小麦の輸入が増え、それを使って作られるパンが家庭の食卓にも上るようになりました。

人びとの好みも変わってきており、アスィダが食卓にあっても「パンはないの」と言う人が増えてきています。

アメリカの小麦は途上国への支援という名目で始められたのですが、その実態はアメリカの小麦の輸出拡大という国内向け政策のためです。

かくしてスーダンも1974年からアメリカの小麦輸入が開始され、人々の食卓の様子も変えられてしまいました。

しかしその小麦も無償ではなくローンの契約となっておりその返済を求められても経済状況は良くならなかったために政府の財政は苦しくなるばかりでした。

 

メキシコはアボカド栽培の発祥の地であり、現在でも世界の生産量の3割を占めています。

しかし世界的に人気が上がったためメキシコ国内でもアボカド生産が増えているのですが、アボカドの生産には多量の水が必要であり、メキシコ国内でも中西部のミチョアカン州に生産地が集中しているのですが、そこでも農業用水の供給が不足する事態になっているそうです。

また生産地拡大のために森林が伐採され生物多様性が損なわれているのも問題です。

さらにアボカド生産が金になると見た麻薬組織がその農家にも関与を強めているとか。

 

農業生産のための化学肥料はほとんどを輸入に頼っていますが、その相手先の統計データも掲載されていました。

2021年で、尿素は47%がマレーシア、37%が中国とこの2国だけで8割近く。

リン酸アンモニウムは実に90%が中国、そして塩化カリウムは59%がカナダ、16%がロシアと供給国が非常に限られていることになります。

さらに世界的な産出量をみても、リン鉱石で中国が39%、モロッコが17%とこれも2国だけで半分以上。

塩化カリウム鉱石もカナダ30%、ロシア20%、ベラルーシ17%、中国13%。

肥料の投入がなければ農産物の生産も激減します。

 

世界の家庭料理紹介の本かと思ったら、かなり内容の濃いものでした。