岩村さんは家族の食卓の光景を調査しその家庭環境を分析するという活動を20年にわたって続けれ来られ、これまでも何冊かの本を書いています。
私もその前著は読んだことがあり、現在の日本の家庭というものがかなり危うい状況だと感じていました。
「家族の勝手でしょ! 写真274枚で見る食卓の喜劇」岩村暢子著 - 爽風上々のブログ
「残念和食にもワケがある 写真で見るニッポンの食卓の今」岩村暢子著 - 爽風上々のブログ
ところが最新刊の今回の本を見ると、もはやほとんどの家族が崩壊してしまっているようです。
前著ではまだ食卓の献立というものを主題とする余裕もあったのですが、もはや献立どころではなく家族関係はめちゃくちゃです。
最初に調査したのが1998年から2009年までで240家庭、そのうち10年後に連絡がつき調査ができたのが89家庭、そしてさらに20年後に調査が可能だったのが89家庭中8家庭でした。
この調査では単なるアンケートだけではなく食卓の写真記録を撮ってもらうという方法をとっており、さらに詳細に面接調査を行うというものです。
その「記憶」と証拠との間には大きな差がある場合も多く、なぜそういった記憶を作ってしまうのかということまで洞察されています。
しかし以前の調査でも「なんとなく違和感」がある食卓風景だった家庭が今では無残にも崩壊してしまっているのには驚くというよりやりきれない思いになります。
親子関係も崩壊、夫婦関係も崩壊(実際に離婚している家庭も)
さらに祖父母世代とはほとんど連絡もしなくなる。
若い子供世代では深夜外出、外泊も当たり前。
そういった家庭の多くが前の調査では「各自好きなものを食べさせています」といったものだったようです。
祖父母世代、老人たちは同居しているからといって安心はできません。
一緒に食事ということが全くないという家庭が多く、正月やクリスマスでも別に食事ということになっています。
アンケートに「同居する家族」という欄があるのに、そこに同居祖父母を書いていない場合もあり、あとで面接した際に聞き出して驚いたということが多かったとか。
もはや「家族意識」すらないようです。
これらの対象者は親がだいたい50代なのですが、それでも家で食事の調理と言うことをほとんどしない場合が多いようです。
子供や父親も外食かコンビニ購入品を食べるのみ、母親もそうですが、それもまとめて買ってくるのではなく自分たちが自分で買いに行く。
そういう内容ですから、栄養的には全くひどいものです。
そのためか健康状態も悪化しています。
その健康状態についても最初のアンケートでは「問題なし」と書いていることが多く、あとからの面接で予想外に重大な健康状態であることが分かるということです。
家族は共に食事をする「共食」によってその絆を強めるのですが、そういった家庭ではもはやその状況はありません。
食卓すら使わずに自分の部屋で食べているということもあります。
そんな状態で他の家族が何を食べているかすら知ろうともしません。
これらをもたらした一つの要因には「ブラック部活」「ブラック企業」があるのは確かです。
中高の部活では朝練、夜練が長時間になることもあり、家族一緒の食事ができなくなっています。
また長時間労働のブラック企業に勤める父親は食卓には間に合いません。
それは確かなのですが、どうもそういった外的要因よりも家族それぞれの「自分が大切」「家族といえどじゃまされたくない」といった意識の方が強く働いているようです。
まったく暗い気持ちになるばかりだった本書ですが、最後の章になって「崩れなかった円満家庭」が紹介されていました。
ただしその数は少なくせいぜい2割程度だそうです。
こういった家庭では夫婦も円満ですが、子どもの躾も厳しく、揃って食卓につくのはもちろん、手作りの料理をわがままを言わさずに食べること、そして食事中はテレビを消すといったことも行われていました。
やはり意識が「個人中心」ではなく「家族を考える」ということを基本としていたようです。
こういった「崩壊しかかった」家庭の女性が「保育士、食育アドバイザー、薬膳料理家」などとして立派なことを発信していることもあるそうです。
実際にその人の家庭状況を見るとそんなことをよく言えるなと驚くこともあるとか。
正論はともかく、現実は無理ということのようです。