家庭での食事の様子を写真に撮ってもらうという手法で、「食DRIVE」という活動を長く続けている、岩村さんの昨年末に出版された近著です。
少し前に同様の趣旨の本を読みましたが、その中でも最近の家庭の食事の様子に少なからぬショックを受けました。
和食がユネスコの無形文化遺産となり、世界的にも和食に注目が集まっていると言われていますが、この本で様子を見れば、そういった「和食」は家庭での食事から完全に姿を消そうとしていることが分かります。
それは単に魚の料理が難しくてできなくなったとか、漬物が好まれなくなったといった事象だけでなく、和食というものを支えてきた日本人の価値観、家族関係、はたらき方や暮らし方まで、すべてのものが変化してしまったからのようです。
「ご飯」を食べる量が激減しているとは言われていますが、それ以上に変わっているのが、「白いご飯」つまり炊いた白米を食べるという習慣が急激に失われつつあることです。
子供だけでなく、その親の世代(30-40代)でも白いご飯をそのまま食べるのが苦手と言う人達が増えています。
味が無いから食べたくないといって、フリカケや卵、キムチ等味の強いものを掛けなければ食べられないようです。
これは味覚の変化もありますが、それ以上に「食べ物をしっかり噛まなくなった」ためではないかと分析しています。
白いご飯は良く噛むことで甘みが出てきます。それをせずに丸呑みしていたら味がしないということになります。
煮物や魚料理などは学校の給食で初めて出会うと言う子どもたちも増えています。
家庭ではまったく作られなくなってしまったのは、主に調理をする主婦たちがその知識も食習慣も無くしてしまったからのようです。
給食ではじめての煮物に手がつけられず、「完食シール」を貰えなくて悔しがる子供に、なんとか食べろと言うのではなく「家庭では食べないようなものを出す学校給食を非難する」という母親も居るとか。
旬のものを時期を合わせて食べるというのも、和食の心と言われていますが、季節がむちゃくちゃになっているのも現代の家庭料理のようです。
鍋料理を夏に、そうめんや冷やしうどんを冬に食べるのも普通だとか。
その「鍋料理」も素材を選び季節を考えということはなく、市販の「鍋つゆの素」を使い好みの具を入れるだけで季節感の無いものとなってしまっています。
最近の家庭料理には子供や親、皆が好きなものしか出ないという傾向が強まっています。
「子供の嫌いな食べ物」を尋ねても、最近では煮物や切り干し大根などがあがることはなくなりました。
そもそも、そういったものは家庭で出されたこともないので、はじめから候補にもあがらないということです。
代わりに「嫌いな食べ物」であがってくるのが、最近では「果物」となっています。
味がはっきりしないと言って、メロンやスイカも嫌い、酸っぱいからといって、グレープフルーツやキウイも嫌い、さらにリンゴやナシ、柿などは「固いから嫌い」と言うそうです。
この「固いものは嫌い」と言う傾向は広く根強いもののようで、柔らかいものばかり食べたがるところから来ています。
「食DRIVE」の調査では、家庭の構成から答えてもらい、実際の料理の写真を添えてもらうのですが、1週間ほどの調査のなかで、1枚だけに「義母の食事」というものがあり、びっくりしたそうです。
他の食事の際には同居の義母とはまったく交差することなく別々に食事を作り、食べ、一回だけ一緒だったとか。
同居で台所や食卓も共通なのですが、時間差をつけて一緒にはならないようにしていたそうです。
それでいて、それほど仲が悪いということもないのですが、食事にはまったく共通するものもないのでそうなってしまったとか。
岩村さんのこのシリーズは、見る度に現在の日本の家庭の問題点に暗然とするばかりです。
社会が家庭から壊れていくというのがよく分かります。
残念和食にもワケがある - 写真で見るニッポンの食卓の今 (単行本)
- 作者: 岩村暢子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/10/18
- メディア: 単行本
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