爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「それでも好きなものだけ食べさせますか?」NHK「好きなものだけ食べさせたい」取材班 他著

2005年頃から盛んに「食育」と言う言葉が使われるようになりましたが、それを取り上げてシリーズでNHKスペシャルとして作成された番組の内容をまとめて本としたものです。
おそらく番組制作から関わっていたと思われる大学教授などの人々が章ごとに執筆されています。

食育に関してはいろいろな側面があるため、番組もさまざまな面からの取材をされています。
小学生の「普段の食卓」を見るというためには、決められた日数の食卓の写真を撮ってもらうという手法を使おうとしますが、これは以前読んだ岩村暢子さんという方の書いた本でも使われていた手法でした。しかし、なかなか調査の受けてくれるところがなく難航したそうです。ようやく、銚子市立本城小学校という学校が協力してくれることとなったそうです。これはその学校が食育というものに力を入れていたからということもあるのですが、それがなかなか上手く行っていないということを学校側も認識しており、なんらかのテコ入れが必要という判断もあったようです。
とにかくその生徒全員にカメラを渡し食事を撮影してもらったのですが、どうしても最初はヨソイキメニューや見栄張りメニューになってしまいますが、何日かすると素地が出てくるそうです。
それを見ていくと、以前から食育に力を入れていただけあり朝食をとらないと言う家庭はほとんど無かったものの、子供の好きそうなものを一品だけという例が多かったと言うことで、先生方もショックを受けたそうです。
朝食に菓子パンや肉まんなどだけを食べると言うことが良く見られたようですが、実は夕食にもそういった例が増えてきているとか。銚子ということで祖父母も同居している家庭も多いようですが、祖父母や父母とは別に子供用に夕食に別メニューを出すとか。大人の食べる野菜や魚のメニューにはまったく手を付けないために仕方なく出しているということが多いようです。
そういった状況を変えるということは難しいのでしょうが、その学校では料理の手伝いをさせるなどの方法でなんとか食事を考えさせる取り組みをしているようです。

小学生全体としては肥満児の割合は増えてはいないようですが、肥満の児童の肥満度はひどくなっているようです。これは将来の健康に大きな障害となるということで、肥満児童の改善が求められているのですが、ほとんど成功しないそうです。そこで、千葉県の東京歯科大学市川病院で肥満の小学生を集めて入院治療をするという取り組みをしたそうです。一人ずつではまったくうまく行かない例が多いということで、小学校4-6年の男児6人を集めて合宿形式で入院させ食事療法と運動をさせるということを行ったそうですが、最初は児童の行動も勝手なことをしたり、騒いだりと心理的な問題があることを感じさせるものだったようです。しかし、徐々にプログラムの意図を理解できるようになり、そこそこの成果を出せるようにはなってくるようです。やはりそのような肥満に至る摂食障害というのには心理的な影響があるようです。

朝食を食べないと言うのが若い人ばかりでなく子供にも見られるようですが、これについては早稲田大学スポーツ科学の鈴木正成教授が書いています。もともと人間の食事の形式は朝夕の二食で、それに昼食が加わってきました。そこでは「朝はしっかり、昼につないで、夜はグルメ」というサイクルであったものが、現代では生活サイクルの変化で「朝は軽く、昼にしっかり、夜はグルメ」になってしまっています。これには生徒は学校の給食があるため、また大人は昼に外食することが多いということが関係しているようです。しかし、こういったサイクルは生活に及ぼす身体のサイクルとは異なっていることがあるようで、不都合な点が多いということで、特に朝が軽く、あるいは食べないということは午前中の活動に悪影響を及ぼすためにまずいと言うことです。

成人病は胎児期の栄養に影響されるという学説があるということですが、戦時中にオランダで極度の栄養不足になったということがあり、その頃に胎児であった人がその後成人病にかかるということが多くその影響が調査されたそうです。これは現在の日本での妊婦の低栄養とも関わってきます。「小さく生んで大きく育てる」ということが理想だと言われることもあるようですが、実はそれはその子供が大きくなってからの成人病発病の要因ともなる可能性があるということです。

これらの内容のシリーズの番組は放送当時かなりの反響を呼んだそうです。子供の食事と言うものだけに止まらず、幅広い年齢層の人々の食事と言うものを見直すきっかけになったのかもしれません。