このところ社会学関係の記事の多かった永井さんのブログですが、ひさしぶりにリスクを正面からとらえたものが掲載されました。
まあ色々な記事も面白いのですが、やはりこれが一番興味深いものです。
その題が「食品関係のリスクを俯瞰する」
この「俯瞰する」というのが最も価値のある考え方だと思います。
つまり、様々な危険性がクローズアップされるとそればかりに意識が向き不必要な対策まで取られてしまう一方、実際に危険度が高いものがおろそかにされることがしばしば起きます。
そのためにも一定の尺度で様々なリスクを比較してみる、それが「俯瞰する」ということなのですが、そういう考え方が必要となるということです。
この考え方で様々なリスクを比較したWHOを母体とする世界的な研究があります。
「疾病・傷害による健康損失を比較的に定量化するための、体系的かつ科学的な取り組み(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000511705.pdf)」
ここでは様々な事象の健康に与える影響を定量化するということで、死亡率だけでなく
損失余命やDALY(disability-adjusted life year:障害調整生命年)といった指標を使って数値化していきます。
特に「DALY」は、損失生命年(死亡数×死亡時平均余命)と損失健康年(障害を受けた人数×障害の継続年数×障害のウェイト)を併せて、死亡だけでは表現できないリスクを考慮しています。
つまり死亡するまでは至らなくとも健康を害し健康な生活を送れなくさせる影響を数値化しようというものです。
それで食品関係のリスクを並べてみると一目瞭然というものです。
肥満(高BMI)、アルコール、ナトリウムの多い食事というものがベスト3。
数字的にも他を圧倒するものです。
その後にも全粒粉摂取、果物、ナッツ、赤身肉、加工肉、牛乳、カルシウムと、プラスマイナスそれぞれに影響のある食事の摂取内容の影響が並んでいます。
いずれも普通に食べている食事の食習慣というものが健康に大きく影響しているということで、生活習慣病といった言葉にもそれが強く反映しているわけです。
ここで最近話題となることの多い、PFOS、PFOA(有機フッ素化合物の中でも有害性が強いと言われているもの)、除草剤のグリホサートを同様の指標で並べてみると非常に小さい値でしかないことが分かります。
ここで永井さんは面白い言葉の使い方をしていますが「リスクの相場観」ということを言っています。
つまり何らかのリスクがあったとして、それの影響はどの程度かということはこういったリスクの影響の数値化をしてみると頭に入りやすいということです。
もちろん、現在のところ健康影響が低いからと言って野放しにしてよいものではなく、その対策は必要なのですが、大慌てで「水が飲めない」などと言うことはないということです。
人間の持つ時間には限りがありますから、何でも相手にして行動することは不可能です。
その中でもっともやるべきことは何なのかということを定めるためにはこういった考え方が有用のようです。