本の題名から受けた印象では、ジェンダー論から見た言語といった内容かと思ったのですが、中味はかなり違うものでした。
本書著者は江戸時代など近世の言語に興味があるようで、当時の色々な集団の内部での「隠語」というものを詳しく調べています。
その使い方、由来などを紹介するというものになっています。
その集団の中に、「宮仕えの女房」や「廓の女たち」、そして「武者」や「武家に仕える奴」といった男たちが含まれていたために、書名もこのようにしたのでしょう。
従って、ジェンダー論的なものを期待するとちょっとがっかりするかもしれません。私のように。
女房言葉という呼び方にも残っている「女房」とは、平安時代の女官のことでした。
その後、その名称の対象はどんどんと下落してしまい、はては庶民の妻にまでなるのですが、「女房言葉」という使い方をする際にはまだかなり高位の人々のことを指します。
宮廷の女官というものから、武家の奥向きに仕える女性たちへと範囲は広がりますが、それでも下々の下種な言葉とは違い優雅さを備えるように語られていました。
有名なのが「何々文字」と使う「もじ」言葉です。
「かもじ」「ゆもじ」等のもので、はじめの一文字のみ残してその後に「もじ」とつなげるものでした。
いろいろな対象があっても一種類しか言い表せませんので、不便だろうとも思いますが、それでも使われていたのでしょう。
他にも、ご飯を「供御」、餅を「かちん」、味噌を「むし」、ネギを「うつぼ」など、完全に仲間内の隠語として使われていたようです。
「いしい」というのも女房言葉であったようです。
意味はもちろん「味の良いこと」「うまいこと」
つまり、現在普通に使われている「おいしい」は元は女房言葉だったようです。
廓言葉というのは、江戸の吉原、京の島原、大阪の新町といった遊郭で使われていた言葉です。
公式に認められていた遊郭は全国で20か所以上あったようです。
廓言葉というのはそこで働く女性たちが使っていた言葉ですが、不思議な事に江戸でも京・大阪でも似たような言葉が使われていたということがあるようです。
これには江戸の遊郭の初期には京大阪から移動してきた人々が多かったという事情もあったようです。
また、遊郭に集められた女性たちは近隣の田舎から出てきており、育ちの分かる田舎言葉を話されると興ざめだということで人為的に廓言葉に変えさせたということもあるようです。
語尾に「アリンス」などと付けるというのが代表的なものですが、他にも色々あったようです。
大阪の遊里で使われていた中には「オマス」というものもあり、これは現在では大阪弁で普通に使われるものとなっています。
武者言葉、奴言葉は面白くないので略。