爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「俗語発掘記 消えたことば辞典」米川明彦著

言葉は新しくできるものもあり、消えていくものもあり、世の流れに従って言葉も流れているかのようです。

実体を示す言葉の場合はその実体が失われることによっても言葉も消えることがありますが、この本で扱う「俗語」というものはそれよりはるかに速い周期で消えるようです。

巻末にはそのような俗語の習性というものについての解説も付されていますが、この本の本体は古くは明治から最近までの俗語の生まれから消えた時点、その由来や類語といったものです。

 

安本丹(あんぽんたん)はその発祥は江戸時代かとも言われています。

反魂丹という薬がありましたが、その名をもじって作られたという説と、「あほう」という言葉を擬人化した「阿房太郎」がなまったという説があるようです。

「あほう」や「ばか」という言葉を少し軽く言ったような語感です。

戦後も使われることがありましたが、さすがに最近は目にしなくなりました。

 

ぐりはま、はまぐりを逆さにした言葉ですが、はまぐりの貝殻を使った貝合わせという遊びから出た言葉です。

元は江戸時代の流行語だったようですが、貝合わせでうまく行かないこと、すなわちピッタリ合わないということを示しました。

これから訛った「ぐれはま」からできた言葉がなんと、「ぐれる」だそうです。

まともな道からそれることを示し、今でも使われるものですが、これも江戸時代から使われています。

愚連隊という言葉もこれから派生し、戦後にも使われていましたが最初は明治時代末期だったようです。

 

人三化七(にんさんばけしち)、最近の人は読むこともできないでしょうが、「顔の醜い様」を表す言葉で明治時代にはよく使われました。

さすがに戦後しばらくすると使われなくなったのですが、こういった卑罵表現というもの全体としてあまり使われなくなってきたようです。

また男女平等はまだまだ不十分とはいえ、昔と比べれば徐々に浸透していく中でこういった女性の容姿をののしるような言葉というものは消えても当然でしょう。

 

ミーハーという言葉はまだ使われることもあるかもしれません。

しかし、ミーハーの元の言葉が「みいちゃんはあちゃん」であることはほとんど知られていないでしょう。

これは明治時代後半から使われました。

おそらく女性の名前の「みよちゃん」「はなちゃん」から、その辺の女の子という感覚で使われたのでしょう。

戦後にはかなり使われることが多く、流行語のようになったのですが、それが徐々に略されて「ミーハー」という形に変わっていきました。

 

戦前の学生の言葉の多くは旧制高校から生まれました。

旧制高校は全寮制であったため、密接な人間関係の中から隠語の類が大量発生したものでしょう。

またドイツ語が必修であったため、ドイツ語をもじった言葉というものも使われました。

まだ旧制高校以上に進学するものは同年代のほんの数%に過ぎず、エリート意識が強かったこともあるのでしょう。

なお、本書著者は非常に細かくこういった俗語の発祥から流行範囲まで調べていますが、旧制高校のからむ学生語でも、「一高はこれこれ、三高、五高はこれこれ」といった具合に学校別の使用状況まで調べられており、その調査は綿密であったと思われます。

まあ「すごい調査だ」と感心するというよりは「よくそんなところまで」という感想ですが。