「秘密のケンミンショー」というテレビ番組があり、都道府県それぞれの特色がある日本でその地域独特のもの、特に料理などを紹介するというもので、もう長く続いています。
本書著者の阿古さんは主に食文化についてあれこれと書いているのですが、その番組からは大きなヒントを貰っているようです。
阿古さんは神戸生まれ関西育ち、大人になってから東京に出てきたのですが、東京の食文化に触れるとこれまでの食の常識というのが関西ローカルルールであったことを痛感しました。
しかし各県の独特の食習慣というものはその地のローカルルールであってもその土地の様々な条件でできてきたものだとも感じています。
そこで、この本では著者が実際に訪れて感じた「ケンミン食のなぜ」をできるだけ事実に基づき推理しようというものです。
取り上げられているのは22題、「信州そばはなぜ冷たい」「金沢の醤油はなぜ甘い」「名古屋人はなぜ小倉トーストが好きなのか」「神戸っ子のハード系パン好き」「長崎に和菓子屋が多いのはなぜか」といった話題について考えていきます。
著者の生まれ育った関西では紅茶の美味しい喫茶店というものがあちこちにありました。
ところが東京に出てきて困ったのが紅茶の美味しい店が少ないこと。
紅茶専門店なるものができても、その内に潰れてしまう。
どうやら紅茶の客は回転率が悪く、高い家賃に見合わないのでは。
紅茶の入れ方も雑な店ばかりで、最近はやりのホテルのアフタヌーンティーのサービスでも肝心の紅茶があまり味がしないのがあります。
やはり関西は長い茶道の伝統があるので紅茶の入れ方にもこだわりがあるのでは。
もう一つ考えられるのが、東京では水の硬度が高いことです。
昆布の出汁も東京ではあまりしっかり出ない、そのためにカツオだしが発達した。
お茶も紅茶も硬度の高いお湯ではあまり出ないということがあるようです。
著者が東京に出てきたのが24年前ということですが、その当時はバゲットなどのハード系パンを出す店が少なかったことに驚いたということです。
そもそもパン屋という店も関西に比べて少なかった。
関西の中でも特に神戸はハード系パンがたくさん売られているということです。
その理由として、朝食にパンを食べる割合が関西、特に神戸は非常に高いということがあるようです。
ハード系パンはおやつではなく食事に食べるものだから、神戸はそれが多いのかも。
ただし、大阪はパン食率が神戸同様に高いものの、ハードパンはそれほどでもないそうです。
やはり明治時代初めから貿易港として栄えた神戸ならではの事情があるのでしょう。
なお、私もハード系パンが好きなのですが、ここ熊本の田舎町ではほとんど売っていません。
スーパーの大量生産品でなんとか大手の製品は買えるようになってきたものの、かつては全くありませんでした。
その代わりにあるのがふわふわのパンばかり。
これには都落ちの悲哀を感じたものです。