爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「『ご当地もの』と日本人」田村秀著

「ご当地もの」というものがかなりの人気を持っています。

ご当地グルメだけでなく、ご当地ゆるキャラ、ご当地アイドル、ご当地ソングなど、いろいろなものに「ご当地」を付けています。

 

こういったものを紹介するだけでなく、その奥に隠れている日本人の「ご当地意識」について考察しています。

なお、著者の田村さんは、自治省から自治体への派遣を経て大学で地方自治などを研究されているということです。

 

ご当地ブームというもののうち、一番大きく扱われてきたのが「ご当地グルメ」といったものでしょう。

2000年頃から「まちおこし」の一環として各地で取り組まれるようになりました。

「B級ご当地グルメ」とも呼ばれたように、それほど高価ではない食材を使い誰でも食べやすいようなものを追求するとして、全国的に競い合う「B-1グランプリ」というイベントも開かれ注目を集めました。

富士宮やきそばや、甲府鳥もつ煮、ひるぜんやきそばなど、有名になったものも多いようです。

 

こういった最近作られた食物だけでなく、伝統的な食材や料理も数多くあり、これらを使って地域独特の食文化を発信しようという動きもあります。

江戸野菜、京野菜、加賀野菜といったご当地野菜や、松坂牛、神戸牛などの肉類もあり、また各地の醤油、味噌などの調味料、日本酒なども地域の特色があります。

 

日本人はなぜここまで「ご当地」というものにこだわるのか。

著者は世界各国を訪れたことがありますが、このような意識は日本人に特に強いのではと感じています。

奈良時代からの律令制度では、租税として租庸調というものが定められました。

租は米、庸は労働力提供ですが、調はもともとの中国の制度では織物を納入するところ、日本では各地の食材や特産物が納められるようになったそうです。

これが、ご当地もののルーツではないかというのが著者の見立てです。

 

さらに江戸時代の幕藩体制で各地の藩が独自性を強め、それが流通するという社会になっていった。

それもご当地ものの成立に関わったようです。

 

ここまで地域の独自性というものがふんだんに存在するのは、日本列島の特性にあるということです。

日本は狭い国だという意識が強いのでしょうが、実はその総延長は3000㎞もありこれはヨーロッパの端から端までの距離に相当します。

さらに山地が多く相互の行き来がやりにくいところも多かったため、地域の独自性が発達しやすかったようです。

 

しかし、「ご当地もの」ブームというのは、かなり政策的に作られてきた面があり、中には失敗したものも多かったようです。

竹下政権で行われた「ふるさと創生事業」では各自治体に1億円が配られましたが、ほとんど効果が上がることはありませんでした。

 

ご当地グルメもどこでもできそうなやきそばや焼き鳥など、大差ないものが乱立してしまい、いつの間にか消えてしまうということも起きています。

逆に少し知られるようになったグルメなどは無断で名前を使っての商売も出てきてしまい、悪質な模倣品でイメージを落とす例もあります。

このようなご当地ものでのまちおこしには、外部コンサルタントに依頼したアイデアに頼るところもありますが、そういったものはたいてい上手く行っていないようです。

やはり町おこしというものは、地元の人がやるべきものであり、外部からの視点というものは補完にとどめるべきなのでしょう。

 

いろいろと難しい問題点はありますが、やはり「ご当地」を活かした地域活性化というものは必要なようです。

よく考えて進めていくべきなのでしょう。

 

「ご当地もの」と日本人(祥伝社新書)

「ご当地もの」と日本人(祥伝社新書)

  • 作者:田村秀
  • 発売日: 2014/11/04
  • メディア: 新書