気温が上がっているのは間違いないようで連日のように猛暑日だという話が続いています。
熱中症で救急搬送をされたとか、何人亡くなったといったニュースも続いていますが、このように猛暑となった日本列島で本当にヒトが生きていけるのだろうか。
著者の永島さんは医師ですが、体温について生理学的な研究をされているということで、こういった酷暑の中で人間の身体がどのように対応していくのかを説明しています。
ただし、やや専門的な術語なども入ってきますので抵抗感のある読者もいるかもしれません。
そういったわけで、この本も「温暖化」だけを扱うのではなく、人間の体温とは何か、体温調節とは何か、脳と体温調節の関係はどうかといったことから説き起こします。
体温測定を普段から行っていますが(特に最近はその回数も増えました)それが本当に「体温」なのかどうか、それも難しいところです。
ローストビーフと同じで、温度を測るといっても表面温度だけを測っても駄目です。
中心部の温度を測らなければならないのは、人体もローストビーフも一緒です。
人体の場合はコア温度というのですが、これは簡単には測れません。
本当のコア温度とは脳の中の温度であるべきなのですが、これは医療現場でも測れません。
それに次ぐ部位として、心臓の肺動脈に留置するスワンガンツ・カテーテルというものを用いた温度測定が正確だそうです。
とはいえ、これも簡単にはできませんので、食道の奥にセンサーを入れて測る食道温、肛門から10㎝ほど奥の直腸で測る直腸温などが使われます。
通常用いられる、腋の下に挟む体温計による測定はあくまでも表皮温度でありコア温度とは差があるのですが、それでも10分ほど挟んで測定すればかなり安定した温度が得られます。
最近多く使われる10秒程度で予測されるデジタル温度計はどうしても誤差が大きいのですが、問題なのは個人差が大きいことで人により大きく下がるということがあるそうです。
人間が気温を感じるのは皮膚にある知覚であり、それが体温調節にも影響します。
感覚神経にあるTRPチャンネルというタンパクが温度センサーであるということが分かってきました。
TRPA1からTRPV2までいくつかのチャンネルが関わっています。
TRPV1が温度だけでなくカプサイシン(トウガラシ成分)にも反応することが分かりました。
TRPM8は冷たさに反応するのですが、メントールにも反応することも分かりました。
つまり、カプサイシンで暑く感じたり、メントールで冷たく感じるというのはセンサー誤作動で誤解しているようなのです。
メントールを身体全体にスプレーしてサウナに入っても暑く感じないというテレビのバラエティー番組があったそうですが、サウナの中で寒いと言っていた人も実は体温が上がり続けていたわけで少し危険だったようです。
暑い中で運動をしたりすると大量に発汗しますが、この汗が体表で蒸発すれば体温を下げる調節機構が働くのですが、そうではなく玉のような汗がしたたり落ちると体温低下には効果のない無効発汗となります。
小さな子供などではこのような無効発汗が多く、汗が飛び散っていてもほとんど体温調節には効果がなく熱中症になりやすいのは、子供の体温調節能力がまだ低いからだそうです。
子供は体の表面積が成人より大きく、140㎝で普通の体格の小学校高学年の場合で大人より15%程度表面積が多いそうです。
これは最近のように気温が体温より高いような場合には外気からの熱が身体の中に向かう量も増えるということです。
この現象は逆に気温が低い場合には身体の熱が奪われやすいということでもあり、低体温症のリスクが出ます。
子供の場合は変温動物に近いとも言えます。
子供の時の成育環境で、体温調節のための発汗ができる能動汗腺の数が上下すると言われています。
子供の頃に暑いところで育つと能動汗腺数が増え、寒いところなら少ないということですが、現在は熱帯でもエアコンが効いた室内で育つ子供が増えているためどうなるかは不明だそうです。
日本は最近急に気温の高い状況になっているかのようですが、熱帯では以前からそういった状態のわけです。
著者はシンガポールの知り合いの研究者に熱中症について聞いてみたのですが、あちらではあまり興味をひかないことのようです。
熱中症が多すぎて感じないのかと言えばそうでもなく、実際にそれほど頻発はしていないようです。
砂漠の真ん中で50℃以上になるところにもげっ歯類などの哺乳動物で住んでいる生物はいます。
彼らの暮らし方を参考にする必要があるのかもしれません。