爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「疫病と人類知」ニコラス・クリスタキス著

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界に大きな影響を残したものの徐々に落ち着いているようです。

しかしワクチンの大量接種や都市封鎖、移動制限など大変な費用と労力、社会影響を与えてしまいました。

 

この本は中国で発しそれが世界に広まり始めたごく初期の2020年の状況からこの感染症の動きや社会の反応、そして感染症と闘い続けてきた人類の歴史まで詳細に書かれています。

著者のニコラス・クリスタキスさんはイェール大学の研究所の所長ですが感染症だけでなく医学から社会学まで広く深く知識を持っているということで、さすがにその後の展開すべてを見通しているとは言えませんが、多くの記述は結果的に正しかったということが証明されたかのようです。

 

なお、お恥ずかしい話ですがこの感染症の原因ウイルスの名称はSARS-COV-2(この本では”SARS2”と略称)、であり、COVID-19というのはそれによる感染症のこと、およびそのパンデミックのことを指すそうです。

COVID-19がウイルスの名称と勘違いしていました。

本書最初の用語解説で改めて知ることができました。

しかし、いまだに日本では「新型コロナウイルス」と呼んでいますが、どうにかならないのでしょうか。

そのうちにさらに新型が出てきたらどうするつもりでしょう。

 

本書冒頭では中国武漢での感染の広がりから始まり、世界に広がりだして数々の愚行を引き起こしながら瞬く間にパンデミックとなるまでの描写がされています。

そしてこれまでの数々のパンデミック、大量死を引き起こしたペストやスペイン風邪から押さえ込みに成功したSARS1パンデミックなど、細かく分析しながらSARS2との違いも触れています。

なお、記述の多くは著者の関係の深いアメリカの事情についてですが、まあ世界的には結局それほど大差のない結果となってしまったようですので、十分に参考になるでしょう。

世界中のどこでも起きた、感染者の非難、医療関係者の差別、よそ者の排除、といった人類の愚かさを示す行動と共に、自らの危険を顧みずに医療にあたる人々やボランティア活動を始める人々なども紹介しています。

ワクチンの開発や時間稼ぎに過ぎなかった治療薬開発なども触れていますが、これらは確定的な話ができなかったのは執筆時期から見てしょうがないことでしょうか。

そして最後には「どういう終結を迎えるか」まで書かれていますが、さすがにそれは今でもまだ未来の話です。

 

日本ではPCRなどの検査の遅れが糾弾されましたが、アメリカも最初はもっとひどい状況だったそうです。

なにしろ、政府のトップがあの無茶苦茶なトランプであり、ただの風邪だと言うばかりの大統領ではなかなか検査体制構築も難しかったのでしょう。

 

いわゆるSARSウイルス、SARS‐1は感染者の多くが死亡するという衝撃的な状況で危機感を募らせたのですが、その死亡率の高さがこのウイルスの蔓延を妨害しました。

感染してから発症するまでの時間が短く、すぐに重症化するためにそれ以上感染を広げることが難しく、患者の死亡と共にウイルスも消えてしまいました。

その点このSARS-2ウイルスは軽症状または無症状の患者が非常に多く、さらに症状が出る前に感染を広げる能力を出すという厄介な性質であったために非常に感染力が強かったということです。

 

1918年に世界中を襲ったスペイン風邪(しかしこのウイルスはアメリカ発祥です)は少なく見積もっても世界中で3900万人、当時の人口の2.1%が死亡しました。

なお、研究者によっては1億人以上とする人もいます。

このインフルエンザの死亡者の特徴として、「W型」の年齢構成を取ったことがあります。

多くの感染症は「U型」すなわち幼児と高齢者の死亡率が高いという傾向があり、今回のSARS-2は「逆L型」すなわち死亡者は高齢者がほとんどという特徴があります。

しかしスペイン風邪の場合は幼児と高齢者の他に20代の人の死亡率が非常に高いという特徴がありました。

この原因は正確には分かっていないようですが、免疫系を狂わせるためその強い若年者がかえって死亡しやすかったとも言われています。

 

2020年にアメリカで急激に感染が広がっていった際のトランプ大統領の言動・行動はひどいものでした。

何の根拠があったのかは分かりませんが、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンがSARS-2の予防や治療に使えると繰り返しました。

そのために水槽の洗浄剤の成分に「リン酸クロロキン」というものが入っているのを見たテキサスの夫婦がそれを飲み、夫が死亡するという事故があったそうです。

自らの政策の失敗を薄めるためか、中国の失敗を言い立てる言動も相次ぎ、このウイルスを「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」と呼ぶことを好みました。

そのためにアメリカではアジア系の人々に対する暴力行為が起きてしまいました。

 

多くの死亡者と社会影響を出したSARS-2ですが、今のところなんとか落ち着いているようです。

このまま無事に収束となるのかどうか。