爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界史を変えた13の病」ジェニファー・ライト著

今正に「病気が世界を変えようとしている」時ですが、この本は2017年に原著が出版されたということで、当然ながら新型コロナウイルスには触れていません。

エイズすら章立てしての記述はなく、最後はポリオで終わっています。

 

人類が文明化し密集して住むようになると疫病というものに悩まされることになります。

記録があるものではアテネの疫病(前430年)が早い方でしょうが、この本では「アントニヌスの疫病」から記述が始まっています。

 

165年から167年の間にメソポタミアからローマに伝わった疫病は、マルクス・アウレリウスの治下のローマで大きな感染拡大を引き起こしました。

医師ガレノスの記録により知られるこの疫病は一般には天然痘であったと推定されています。

衛生観念が低かったためか、疫病で亡くなった人々の遺体が通りに山積みになっていたということで、それでさらに感染が広がったのでしょう。

 

歴史的な疫病は次々と襲ってきました。

腺ペスト、天然痘、梅毒、結核コレラハンセン病

ウイルスや細菌によってこれらの病気が引き起こされることが知られるまでは、神の怒りと考えたり、ユダヤ人の毒とされたり、悪臭から病気になったと考えたり、誤った原因推定から誤った行動をし続けていたと言っても良いでしょう。

 

著者が強調しているように、

「本書からひとつだけ得るものがあるとしたら、それは病気の人は悪者ではないということであってほしい。病人は体調が悪いだけだ。何度言っても言い足りない。罪人だとか堕落者だとか、いろいろ否定的なレッテルを貼らずに同情すべきだ。病気こそ悪者で、追跡して戦わなければならない」

という意見はまさに真実と言うべきでしょう。

 

しかし、それとは逆の行動がまさに現在世界各地で起きています。

新型コロナウイルスに感染したことで非難され中傷される人が跡を絶ちません。

人間は歴史から何も学んでいないようです。

 

スペイン風邪について記述してある章で、目からウロコの知識を得ました。

この名前からスペインから広がったかのような印象を受けますが、このインフルエンザの最初のエピデミックの症例は、アメリカのカンザス州の医師によって報告されています。

どうやらアメリカ中西部から発したのかもしれません。

それがなぜスペインの地名がついたのか。

その時期はちょうど第1次世界大戦の最中でした。

そのため、大規模な感染症については報道することを政府が許しませんでした。

これは、アメリカに限らずイギリスなどにおいても同様でした。

ところが、スペインはこの大戦には参戦せず中立でした。

そのため、スペインでは報道管制がかからず、インフルエンザの流行についても報道されていました。

そのせいで、スペインでまず感染が広がったかのような印象になったということです。

 

スペイン風邪では他の感染症とは異なり、若年層の重症化、死亡が非常に多かったことが知られています。

通常は乳幼児や老人の死亡率が高いという、U字型のグラフになるのですが、この時の死亡者は20代、30代で多いという特徴がありました。

これは、このインフルエンザが健康な免疫系を過剰に刺激し、サイトカインストームというものを引き起こしたようです。

サイトカインタンパク質は、感染時に免疫細胞の放出を調整するのですが、健康な人にはそれが多く存在します。

そこに攻撃をするこのウイルスにより、免疫細胞が感染個所に過剰にあふれて炎症を起こすことで、重症化を引き起こすようです。

「免疫力増強」のためには「✖✖を食べましょう」などと連呼しているCMがあふれていますが、大丈夫でしょうか。

 

疫病拡大の時には人はいろいろとバカなことをやっていたものだと、振り返るまでもなく、今でもやっているのが現状なのでしょう。

 

世界史を変えた13の病

世界史を変えた13の病