爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食品偽装を科学で見抜く」リチャード・エバーシェッド、二コラ・テンプル著

食品偽装事件は日本でも数々起きていますが、世界的にも頻繁に見られます。

安い原料を使って高いものに見せかけることで大きな利益が得られることから、犯罪者たちが付け込む隙を見出したいという思いは簡単には止められないのでしょう。

 

著者のエバーシェッドさんはイギリスのブリストル大学の生物地球化学の教授ですが、植物油の偽装を見抜く分析手法を開発したそうです。

テンプルさんはブリストル在住の科学ライターで、エバーシェッド教授と協力して本書をまとめました。

 

偽装食品を作るためには本来の食品原料に代えて何らかの安い原料を使います。

その原料と本来のものとの間に何からの違いがあることが多いのですが、それを効果的に検出する方法を見出せば偽装の証拠をつかんだことになります。

しかし、ひとたびそれで偽装を摘発したとしても、また偽装行為を目指す者たちはその科学分析手法では見いだせないような方法を考え、それはいたちごっことなりかねません。

 

そのような実例を、「オイル」「鮮魚」「肉」「牛乳」「香辛料」「ワイン」「野菜」と次々と挙げていきます。

オイルでは脂肪酸の構成成分の違いを液体クロマトグラフィーで分析し、鮮魚や肉ではDNAを分析して動物種を特定して偽装を明らかにしていきます。

とはいえ、それで分かる場合もある一方、そういった分析手法では捉えきれない事例も多く、一筋縄ではいかないようです。

 

食品偽装とは必ず「粗悪化」です。

粗悪化とは英語では「アダルタレート」ですが、これは「アダルタリー」つまり「不倫」と似ていて同じくらいスキャンダラスだそうです。

 

化学分析を用いて食品偽装を暴く本を最初に出版したのは、なんと1820年だそうです。

イギリスに住んでいたドイツ出身の化学者、フレデリック・アックム氏が当時のイギリスの食品業界のあまりのひどさに、食品偽装の実態とそれを見抜く化学実験法を書いた本を出版しました。

もちろん当時知られていた化学実験法の範囲内ではあったのですが、当時は毒性のある混入物も頻出していたことが分かります。

 

植物油の偽装事件が起き、多くの死傷者がでた有毒油症候群(TOS)事件が起きたのは1981年スペインでした。

2万人の被害者が出て1200人以上が亡くなりました。

工業用とされた菜種油には食用にされないように変性剤としてアニリンが加えられたのですが、これは腐った魚の臭いがします。

それを何らかの方法で無臭化してしまい、その過程でできた有毒物がTOSの原因となったのですが、その詳しい反応と有毒物はまだ解明されていません。

しかしこの事件はスペインの政治システム自体にまで大きな悪影響を与えました。

 

イギリスでは牛肉と称したひき肉の中に馬肉が混入されていたというホースゲート事件というものが起きました。

これは馬肉を食べないイギリス人にとっては非常に大きな衝撃でした。

しかし同じ頃に頻発していた牛肉への豚肉の混入はほとんど報道もされません。

国民の意識がどこに作用しているかは国によって違うようです。

豚肉の混入はイスラム国などでは大問題です。

一方、馬肉を食用としている国にとっては馬肉の混入などは大したことではありません。

 

脂肪酸組成で分かる植物油、DNAで分かる肉や魚と比べると酒類の偽装を見抜くのは非常に難しいようです。

高級とされている酒に特有な性質は何かということが決められれば偽装酒を見分けることもできるのですが、それは簡単にはいきません。

結局、中味で決められなければラベルや封栓の状態で見るしかないのかもしれません。

 

同様に、有機農産物の偽装というものも見分けることが困難なようです。

そりゃそうだろうと納得です。