日本では必ず学校の世界史の時間で、古代文明として「四大文明」というものを習います。
メソポタミア・エジプト・インダス・黄河というもので、いずれも大河のそばであることから「大河文明」とも呼ばれますが、それが古代文明の必須条件かのように言われます。
しかし、世界のあちこちで考古学的発掘作業が行われることにより、古代に様々な文明があったことが分かってきています。
それらをどう扱うか、歴史学者により見解が分れるようですが、本書著者の山本さんはいわゆる「四大文明」とは別に起こり栄えた文明があったとしています。
それが、「高地文明」というものです。
中米や南米でアステカなどの古代文明が栄えたことは分かっています。
それらは大河のそばで発生したものではありません。
しかし特徴的なことが、「熱帯の高地」で栄えたということです。
現在でもそれらの地域では3000m以上の高地に多くの人が住んでいますが、熱帯の特性として低地では暑すぎて湿気も多く人が住むには不快であるため、高地に住むことを選んだのは古代でも一緒でした。
中米や南米の古代文化で特徴的なことは他にもあり、「多くの植物を栽培できる農作物とした」ということが挙げられます。
コロンブスのアメリカ発見以来アメリカの作物が世界に広がり世界中の食料事情を大きく変えました。
ジャガイモやトウモロコシといったものですが、これらは中南米の古代文明の頃から徐々に品種改良が繰り返され栽培作物とされたものです。
いわゆる「四大文明」では、農耕の採用ということが文明の条件と言われていますが、実は四大文明ではすべてコムギの栽培のみが実用化されています。
そして、その発祥地はメソポタミアであり、他の3文明はそこからの伝来であることが明らかです。
つまり、食料というものを独自に生み出したのではなく、いわば「基本文明」ではなく「周辺文明」に過ぎないとも言えるのです。
それにひきかえ、中南米の文明は独自の食料生産方式を生み出し栄えました。
これこそ立派な古代文明と呼ぶべきものでしょう。
熱帯の高地という条件は、実は他にも存在します。
そしてその双方に古代文明がありました。
いずれもインダスやエジプトと近いためにそこからの伝来だとして重要視されてきませんでしたが、その内容はかなり独自性の強いものです。
チベットでは独自の穀物としてチンコー(大麦の一種)、そして家畜としてのヤクを生み出しました。
さらに独自の宗教としてチベット仏教を持っています。
エチオピアでも独特の栽培作物を作り出しており、テフというイネ科穀物やエンセーテというバナナに似た作物で葉柄のデンプンを利用するものを生み出しています。
どちらもエチオピア高地にのみ栽培されるもので、低地では生育しません。
著者の見解として、文明と呼ぶのに必要な条件は「独自の食料生産を生み出すこと」だということであり、それにはこれらの熱帯高地の文明は十分に資格を備えているということです。
従来の「四大文明」史観では都市があること、農業生産を行なうこと、に加えて「文字の使用」ということを加えていたために、中南米などの無文字文明を軽視することがありました。
しかし、南米のインカ文明でもキープという縄を結んだものでほとんどの記録が成立しており、これまでの文字というものの定義が狭すぎるのは明らかです。
四大文明の他に高地文明というものがあるというのが著者の主張ですが、歴史学界ではまだそこまで理解が得られているとは言えないようです。
しかし、かなり正当性のある主張だと感じさせるものでした。