江戸時代の江戸での生活などは数々の書物でも描かれており、それをもとにした小説も書かれ、また映画やドラマにもなっているため、現代人にも身近に感じられるものとなっています。
ただし、実際にそこで暮らすということがどういうことなのか、そう言われると具体的な生活の実感というものはほとんど得ることができないでしょう。
この本ではそこも感じ取ることができるように、「あなたが江戸へ移住するとすれば」という、SF的な設定をして読者の想像力を掻き立て、その時に降りかかってくる数々の出来事をできるだけリアルに描いています。
もちろん、実際に「どうやって時空を超えて江戸時代の江戸に行くか」ということには触れず、もう行ったものとしてその次の場面からですが。
まず、どこか住むところを探さなければならないということろから始まります。
現代であれば不動産屋をめぐって手ごろな物件を探すということろでしょうが、当時は不動産屋などと言うものはありませんので、どこを訪ねるかということから始まります。
「大家さんに気に入られること」「自分の身元を明らかにすること」など、注意点まで書かれています。
ただし、大家さんと交渉するにしても当時の話し方は現代とはかなり違います。
そういった言葉遣いの違いもさらっとですが解説されています。
まあ、「きっと田舎の出の人なんだ」と解釈され、それはかえって上手く行くかもということですから、気にしなく良いのでしょう。
暮らしていくには何らかの仕事をして稼がなければなりませんが、そういった職業についても詳しく解説されています。
商人や職人となるのが普通なんでしょうが、これらは子供の頃から修行しなければならずポッと来た大人がすぐにできるものではないでしょう。
ただし、当時でも「何だか分からない商売」をしている人間はたくさんいたようで、「耳垢取り」「猫のノミ取り」なんていう商売もあったとか。
それでちゃんと稼げたかどうかは怪しいですが、とにかく何とか生きていけたのが当時の江戸だったそうです。
江戸時代の川柳に「日に三箱 鼻の上下臍の下」というものがありました。
箱とは千両箱のことで、江戸では一日に千両の金が流れる場所が三か所ありました。
鼻の上、つまり目を楽しませる芝居町、江戸三座という大きな芝居小屋でした。
鼻の下は口で味わう魚河岸で、これも朝のうちにもう千両動いたそうです。
臍の下は言わずと知れた吉原。
この三か所についても細かく説明されています。
吉原に上がって遊ぶ方法などというものは、あまり細かく書かれているところはないでしょうが、吉原のどこに最初に入ってどうするか、最後のところまで解説されています。
江戸時代の時制は不定時法と言い、日の出を明け六つ、日の入りを暮れ六つとして、昼夜をそれぞれ6等分するというもので、季節によって時の長さが違うというものでした。
今からは想像もできないものですが、ほとんど照明も無いも同然の場合は自然光を最大限に利用する必要があったため、こういったやり方の方がかえって理にかなった現実的な方法であったようです。
ただし、ちょっと疑問ですが、不定時法が行われたのは日本だけなのでしょうか。
世界各国とも事情は同じようですが。
女性がお化粧をする場合、白粉(鉛が主成分ということで危険なものでしたが)を使って美白を目指すのですが、それと同時に使う化粧水があり、「花の露」というものを自作して使っていたそうです。
バラ科の茨の花を摘み、水と花を蘭引(らんびき)という蒸留器に入れて沸騰させ、その湯気に白檀や丁子などの香料を混ぜて作ったということですが、江戸の女性は自分で作っていたということです。
この蘭引には驚きました。
焼酎製造にも使われていたランビキから派生して使われるようになったのでしょうが、それが一般にも使われていたとは。
他の記述も興味深いものですが、「江戸では捨てるものはほとんどない」というのは考えさせられるものです。
どんなものでも再利用するのが当たり前、使ったものを買って行って再生して製品にする職人が必ずいたようで、「ゴミ箱」というものが無かったそうです。