MITの研究者たちが雑草のセルロースをエタノールに変える人工酵母を開発し、バイオエタノール製造に進んで行くそうです。
記事中にもあるように、現在のバイオエタノールと称するものはおもにトウモロコシを原料に作られていますので、食料と競合して問題となり生産量を増やせない状況です。
それが雑草などのセルロースを発酵できるようになれば、「全米の石油使用量の50%を代替できる」というのも計算上はウソではありません。
ただし、このような記事で紹介されている新技術ですぐに実用化できるものなどほとんど無く、この先には長期間に及ぶ研究開発が必要となり、さらにそれでも結局は実用化困難となるようなものであることが大部分の例でしょう。
研究のほんの初期段階で一般向けに希望だけを振りまいて、どうせ研究費をかき集めようというのでしょうが、実際はその先に進めるものはこれまでのところ何もありません。
今度のものが初めてそれを打ち破るものでないとは言えませんが、ほぼ可能性はないでしょう。
その理由をざっと並べてみます。
エタノールを発酵で作る微生物のうち、もっとも効率がよいのが酵母(Saccharomyces等)ですが、これはグルコースやシュクロースなど、単糖類と二糖類を分解する酵素を持ちそれをエタノールに変換します。
それ以上の多糖類、デンプンなどは酵母だけで発酵することはできないので、酒類発酵の場合はデンプン糖化という工程が必要であり、日本では麹、ヨーロッパでは麦芽を使ったり、デンプン糖化酵素を使ってからエタノール発酵をするわけです。
植物体を形成する多糖類はセルロースの他にも多数のものがあります。
これらは確かに酵母は消化できないために普通であれば発酵はできません。
それを可能にするように酵母に遺伝子操作をくわえるということなんでしょう。
しかし、この記事では次のように書かれています。
そこで、MITのチームは、エタノール生産微生物である酵母に、アルデヒドをアルコールに変換する酵素を組み込み、さらに酵母の膜を強化することで高濃度のエタノール中で生存できるようにした。
アルデヒドは他の反応で生成するのでしょうが、まずその前にセルロースなどの多糖類を分解しなきゃどうしようもないでしょう。
まあ、実際には研究チームはそういった検討もされているけれど、この記事を書いた人がその事情に疎く書き忘れたのかもしれません。
記事には「トウモロコシは水と肥料が大量に要る」とありますが、おそらく雑草にはそういったものは不要とでも思っているのでしょう。
しかし、それは間違いです。
雑草(アルコール製造に使うようになればもう”雑草”とは言えなくなりますが)であっても持続的に生産し使用することが続けば土地の栄養は吸収されてどんどん減っていくでしょう。
そのあとは「雑草も生えない土地」になるばかり。
結局は「雑草栽培」にも水も肥料も大量に必要であるということが判ることになります。
このように、この記事の題名を見て「これならバイオ燃料も行けるかも」と期待を持った人はそれを裏切られることになります。
こういった話がこのところ連日のように見られるようです。
それだけ、エネルギーの未来に対する不安感が増しているのでしょうが、そこにつけこむことを企む連中も次から次へと現れてきます。